1999.9.27

 

  9. 高令化とがん
 

 

 日本人の寿命が世界一だといっても、がんが死因の第一であり、しかもそれが年々ふえているではないか。実はがんは二つの意味で老化と結びついている。わが国でがんがふえているのは高令化の為でがん年令と言われるように50、60歳と年令と共にふえるので、高令者の割合がふえるとそれだけ実際のがん死亡者数もふえることになる。このような時には年令構成が一定という条件での死亡率の比較(年令調整死亡率)が望ましい。例えば男性のがん死亡数は1960年には50,898であったものが1990年には130,395、1996年には164,824と著しく増えているが、年令調整死亡率は人口10万当たり夫々、188.2、215.6と225.7と最近増加の勢いは鈍っている。殊に最近は1995年をピークに226.1から、96年には225.7、97年に221.3と減少の傾向が見られる。女性の方はこの点がもっと明瞭で死亡数では1960年の42,875が1990年には87.018と倍増しているが、年令調整死亡率では132.0が107.7と可成りの減少をしている。勿論これはがん全体について見たことで個々のがんについてはこの間に減っているものも増えているものもある。これらに対してその対策を考えなければならないがそれは別のもの(食餌とがん予防)にゆずることにする。

 そこでもう一つの問題、何故がんは老化と共に出現するのか、老化とがん化とのかかわりあいは如何、ということが浮かび上がって来る。がんは年と共に出てくるので、一つのがんを治してもまた次のがんが出てくるので結局はがん死はへらないよ、という意見まである。しかし、老化とがん化との関係を明確にした研究は残念ながら未だ見られない。この点で一番関連がありそうなのは細胞老化の研究である。いろいろの高等動物の細胞を取り出して試験管内の培養に移すと、一定の回数分裂したあと死滅し、その回数はほぼ生物の寿命に比例するということを1960年代にアメリカのヘイフリックが言い出した。周知のようにがん細胞は身体のなかでどんどんふえるのでこれを培養系に移すとこのような限界がなくいつまでも分裂を続ける。このように正常な細胞には一定の寿命があるが、がん細胞は不死である。何故細胞に一定の寿命があるのか、それをどうしたら不死になるのか、ここにがん研究と老化研究の一つの接点がある。ただし実は、細胞は不死化しただけでは浸潤したり、転移したりするようながんにはならない。その上にもう一段悪性化が進むことが必要なことが分かっている。ただし人の細胞は培養系でこの不死化、悪性化の段階を進ませることが極めて困難で、このことが研究上の大きな壁になっている。この壁をやぶるべく研究が日々進行しつつあり、大きな期待が寄せられている。

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