1999.9.27

 

  10. 高令化と循環器疾患
 

 

 前回にも述べたようにがんが日本人の死因の第一であるというのは常識である。しかしWHO循環器疾患と栄養国際共同センター長の家森幸男京大教授によると循環器疾患こそ日本ではもとより世界での健やかな長寿の敵である。循環器疾患の主な死因は脳卒中と心筋梗塞(虚血性心疾患)であるが、昔は死因の第一位であった脳卒中が今では第三位になり、心筋梗塞ががんについで二位になっているが、この二者を何れも循環器それも血管の障害にもとづくと考えて合計すれば、がんをぬいて第一位になる。しかも欧米の多くの国で心筋梗塞が死因の第一位であって、わが国の食生活が欧米化すると増加するおそれがある。

 ここで少し説明を加えておくと脳卒中というのは脳血管が破れて出血するか、つまって脳のある部分の血行がなくなるかで、半身不随やひどければそのまま死に到る典型的な老人病である。わが国では1965年頃をピークに急激に減少し、今では死亡率は当時の三分の一位になっている。心筋梗塞は心筋の栄養をつかさどっている血管(冠状動脈)がつまって心筋が壊死になる病気で猛烈な胸痛が起こり、屡々そのまま死に到る。何れも知らない間にじわじわと進行し、ある時急に発病するという特徴がある。家森教授はWHO(世界保健機構)のもと22ヶ国に51の拠点をもうけこれら循環器疾患と生活や栄養との関係を調べ、これらの病気を防ぎ、健やかな長寿を保つための生活のあり方を探求している。それには高血圧や脳卒中を起こす実験動物(SHRラット)の開発があり、それでは遺伝的にこれらの病気を起こすが、それが食餌の如何によって予防出来るという実験結果が下敷きになっている。すなわちこれらの血管病は食餌やライフスタイルで十分予防出来るということである。最近言われている生活習慣病の一つである。

 これらは何れも血管がもろくなったり、つまったりする病気で、死因として寿命をきめる重大因子になるので老化の研究の立場から切り離せないものである。しかしこの病気のほかに年をとるとすべての血管に老化現象がみられる。昔から「人は血管と共に老いる」と言われている。たとえば心臓からでた血液の流れる大動脈は20才頃まで長さと直径の上で成長、発育をとげるが、その後加令と共に太く長く壁も次第に硬くなっていく。これに応じて心臓は強く働き血圧は上昇し心臓は肥大する。このようなことは全身の血管に起こり、その結果いろんな臓器の機能も年と共に次第に低下する。この変化は医学的にははじめに述べた循環器疾患とは異なるので、これらの疾患を防げてもさけられない老化現象である。正にここに血管の老化という新しい問題が出てくるのである。

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