2005.12.1
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菅 原 努
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31. 京のあじわいとこころ | ||||
全部の演者が決まったのが9月、ポスターが出来たのが10月と遅くなったので、参加者が十分あるかどうか、大変心配しました。ところがどうでしょう、当日は補助席を出すほどの盛況でした。後の懇親会も急きょ広い会場に変更しなければならない程でした。普段なかなか直接話をする機会もないような講演者が喜んで懇親会に参加してくれましたので、総合討論はもとより、懇親会での個人的な質問も十分にすることが出来、参加者全部に十分に満足してもらったのではないかと自負しています。世話役の先生方、事務局に心から感謝します。 さて、講演は西陣の呉服の古いお店を西陣暮らしの美術館「冨田屋」(国の登録有形文化財)として開放して、京文化の普及に努めておられる田中峰子さんの話から始まりました。京文化は先ず着物から、と言われてずっと見回してみましたが老若男女沢山いる中に和服姿は残念ながら演者だけでした。ふと私も昔は家に帰ると着物に着替えたなあと思い出しました。「病気をして入院しましたが、先生の一言で信頼がわき、入院をゆっくりと本も読め、こころを休める時間としてすごすことが出来ました。こころの暖かさ、物を大切に、こそ京のこころです」と。そこからスライドで町屋の実際とそこで展開される年中行事が紹介されました。たしかにそれは楽しいけれども、京都で育たなかった私達夫婦は、京都に住むようになった頃にあまりの行事の多さに辟易したことを思い出しました。 華やかな美人の話の次は、武田薬品・京都薬用植物園長の渡辺 斉さんが「食事のあり方を見直す−先人の智恵を生かす−」と題して話されました。抄録にはいろいろと難しいことが書かれていましたが、話はもっと分り易く、現在の健康問題は生活習慣病ですが、現在の生活習慣は余りにも石油製品中心である、これを見直して昔の人の智恵を見直そう、というのが、骨子でした。「衣は天然素材から、食は玄米から、住は引き戸へ、密閉から開放へ、」を日本の例、タイ・ラオスでの見聞を交えて話されました。 休憩をはさんで、次は注目の瓢亭の高橋英一さんです。注目と言うのは座長も紹介で言われたのですが瓢亭は誰も名前は知っているが、なかなか高価で庶民には縁遠い料亭だから、せめて話でもということです。“京の文化は、宮中中心の公家文化による特殊な発展をしたものである。京料理の歴史は、次の四つの基礎から発展、進歩してきた。それは宮中から――有職(ゆうそく)料理:寺院から――精進料理;茶道から――懐石料理;町屋から――おばんざい。”以下特にだしの作り方など詳しく話され関心を引いていました。 最後はいよいよ科学者の出番で、京大農学研究科長の伏木 亨教授から、「やみつき」になるおいしさの科学:現代人の食行動のモデル、という話がありました。「おいしさとは?」を科学的に解くと次の3つになるのではないか,というのです。
実に明解で、それまでの味とおいしさとが科学的にかなり明らかになったように思えました。でも私は閉会の挨拶では、少し遠慮して、今日のいろんなお話を皆さんの頭の中でうまくこね合わせて「あじわいとこころ」について京都からの発信を考えてください、と申し上げました。 最後に懇親会での雑談の中で、財団がお世話になっている大阪の会計事務所長さんから、「こんな事は東京はもとより、大阪でもむりで、やはり京都ですな」と言われたのが何よりの喜びでした。こんなことと言う意味は、こころから科学まで、また参加者も市民から文科系理科系をまぜた学者まで、みんな一緒に一堂に会してわいわいと議論する、といったことです。 この喜びをお世話いただいた皆様にお分けして、わたしの拙い見聞記を終わります。 なお、詳しい内容は前回の香りのフォーラムとあわせて一冊の本にして出版する予定ですから、ご期待ください。
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