2001.2.1
 
「環境と健康」Vol.13 No.2
健康指標プロジェクトシリーズ

卵成熟の生物学
トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫
 

脳下垂体ホルモン

 それが1960年に至りましてようやく再開されたのはカエルを使っての実験でございます。私達が使っているのはヒョーガエルという北米産のカエルであります。それと最近私達が使っておりますアフリカツメガエルというカエルであります。いずれのカエルも卵が似たような構造を示しますので区別 いたしません。でもある実験はヒョーガエル、ある実験はアフリカツメガエルを使ってやっておりますが、そのことは一応念頭において頂きますが私はいちいちその区別 はいたしません。カエルの卵成熟の問題を解決するには卵成熟を体外で起こすことが必要であります。このことが簡単な実験で出来るわけでありますが、それがなかなか出来なかった。しかし初めてやった人が1939年ハイルブランという人であります。これは簡単な実験でありましてカエルのお腹を開いて卵巣の一片を切り出しましてそれをリンゲル液の中に入れ、そこへカエルの脳から取りました脳下垂体をすりつぶしまして混ぜます。それだけでいいんであります。そうしますと翌朝卵成熟も起こるし卵巣片から成熟した卵がシャーレーの中へ放出されるのであります。そんな簡単なことがどうして出来なかったのかよく分かりませんが、アメリカでこの実験がされた時に世界ではほとんどどこの国もこういうことはやっておりませんでした。1950年代に入りましてこのことを広島大学の灘光晋作先生が取り上げて研究されましたが、途中で大学をお辞めになりましたので続いておりません。1958年に中国の上海で同じやり方によってヒキガエルの卵巣卵を排卵させ成熟させるという実験が朱洗と王幽蘭によって行われました。そのことを聞いてロシアのモスクワのデトラフ教授が上海に駆けつけまして、その時に習った方法によってモスクワに帰りましてから彼女が実験を始めたわけであります。

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