2001.2.1
 
「環境と健康」Vol.13 No.2
健康指標プロジェクトシリーズ

卵成熟の生物学
トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫
 

卵成熟

 しかし我々の卵巣の中にあります卵細胞を取りましてそれと精子を一緒に混ぜましても受精は決して起こりません。受精が起こる為には卵細胞は卵成熟という過程を経なければならないのであります。従いまして卵成熟と受精という過程を一緒に含めまして我々は細胞が再び起こる回生のチャンスをつかむということが出来ると思うのであります。卵細胞はしかし受精しないでおりますと、卵巣の中ではやはりどんどんと死んでまいります。それは最近ではアポトーシスという名前で細胞の自然死と呼ばれておりますが、昔はアトレイジアという名前で呼ばれておりました。例えば人間でありますと、最初は始原生殖細胞が増えまして、妊娠2ヶ月の胎児の中では60万の数に増え、5ヶ月になりますと700万の数に増えるんでありますが、出産直前の9ヶ月になりますとそれが7分の1に減りまして100万になってまいります。そしてさらにどんどん細胞が死んでまいりまして思春期になりますと30〜40万の細胞しか残らないのであります。しかもこの30〜40万の細胞の中で毎月1度排卵されるわけですから、その排卵の数は一生を通 じてごくわずかなものでありまして、400〜500のものであります。その400〜500の細胞のうちのほんの数個が受精という機会を恵まれまして分裂をさらに続けるチャンスを得るわけでありますが、他の細胞は受精されずにそのまま死んでしまうわけであります。排卵される卵母細胞には同時に卵成熟が起こりまして卵巣の中にありました卵母細胞は減数分裂を始めるわけであります。その減数分裂を始めるきっかけになりますのはホルモンの分泌でございます。そのホルモンの主な分泌のパターンは次のようなものです。まず血中のホルモンのレベルでありますが黄体化(黄体形成)ホルモンがまず最初に出てまいりまして、それから濾胞刺激ホルモンが出てまいります。それと同時に女性ホルモンのエストロゲンが増え、或いはその前後にプロゲステロンが再び増えてまいります。そういたしまして卵巣の中にありました卵母細胞は濾胞から放出されまして外へ出てまいります。それに対応いたしまして子宮の上皮は非常に肥厚してまいりまして、もしもこの卵が受精した場合には着床することもあり得るわけでありますからその準備をするわけであります。

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