「環境と健康」Vol.13
No.2
健康指標プロジェクトシリーズ |
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卵成熟の生物学 |
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トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫 |
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MPFの実体 このようなやり方によりましてMPFの抽出が1976年に可能になりますと後はそれを使って色々性質を調べることが出来ました。その結果 、MPFの詳しい話は省きまして結論だけを申し上げますとMPFというのは砂糖の濃度勾配の場で遠心分離をいたしますと3つのフラクションに分かれまして、いろんな大きさのMPFの活性を持つフラクションが存在するということが分かってまいりました。そしてこれはタンパク分解酵素によって非常に敏感に活性を失うということであります。しかしRNaseに対しては非常に強いものでありますからこれはタンパクであろう。そして特に問題になりますのはカルシウムが少しでもありますと活性を失うけれども、マグネシウムがなければMPFの活性もまた失われると。従いましてマグネシウムがあるということが必要であると。何故かと言いますとその後しばらくして脱リン酸酵素を抑えることによってMPFは安定化する。或るいはATPを加えますとMPFはその活性を増すというようなことが分かってまいりました。そこで1978年あたりの結論でありますとMPFは1種のリン酸タンパクであって、そのリン酸化によって活性を持つものであるという結論、今日の分子生物学的なMPFの結論の基礎となった事実が分かったわけであります。それから本当にMPFを精製する為にはその後さらに10年かかったわけでありますが、これにはいろんな理由がありまして説明するのは少し時間がかかりますので省きます。一口に言えばHPLCという新しい型のクロマトグラフィーが1985年あたりまで手に入らなかったということであります。それとか他の薬剤が市販されていなかった。そういう必要な薬剤が手に入った時点で私の元学生のマンフレッド・ローカという人がコロラド大学にポスドクで行った時に初めて10年後の1988年に精製をいたしました。そして今日MPFの分子的な性格は非常に詳しく調べられております。MPFを注射してない卵を切った時のカエルの卵では染色体が少し固まっておりまして卵核胞がある。MPF注射によって成熟させますとまずジャーミナルベシクルがつぶれましてここへ染色体が上がってまいります。それが白いスポットとして見えます。これが外部から見て卵が成熟した指標になるホワイトスポットと呼ばれている現象でありますがその時内部を切ってみますとやはりホワイトスポットのところにきっちりと並んだ染色体が見えて卵は形態学的にも生理学的にも成熟している。やはりこういうMPFで成熟した卵に核を注射しますと細胞は分裂していくということが分かりました。それで今日MPFは次のようなものであると考えられております。MPFは2つの分子からなっております。その1つは酵母で最初見つけられました細胞分裂を制御する遺伝子の産物であるcdc2タンパクであります。もう1つは海産動物で最初に発見されました物質で、細胞分裂と同時に機を合わせて消失したり出現したりするサイクリンと呼ばれるタンパク質です。この2つが寄ったものがMPFであるということになりました。それが、1990年に近い頃であります。このあたりでMPFが如何にして卵成熟を誘導するかという分子生物学的な基礎が出来たわけであります。
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