「環境と健康」Vol.13
No.2
健康指標プロジェクトシリーズ |
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卵成熟の生物学 |
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トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫 |
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細胞分裂抑制因子CSF ところが、もう1つ受精と卵成熟に関しての問題がございます。それはなぜ卵が分裂を停止するのであるか,その第2減数分裂の中期で止まります。受精するまで止まっております。その理由を探る為に1つの考え方としまして成熟した卵は受精するまでは減数分裂あるいはそれ自身の細胞分裂を止める一種の制御物質インヒビターを持っているという考えであります。そのことを証明する為に未受精卵で第2減数分裂で停止しております卵の細胞質を分裂中の卵に注射するという実験を始めました。受精した卵の第1卵割で2つの細胞になった時の一方にその未受精卵の細胞質を注射しますとその細胞はただちに分裂を停止いたしますが、注射しなかった方は完全に細胞分裂が進みまして発生をし続けます。これを切片にしてみますと、やはり注射した方では細胞分裂が止まっています。その中の染色体を見てみますとやはり染色体は中期で止まっているわけであります。注射していない方は完全に半胚を形成しているわけであります。従いましてこの未受精卵の中には一種の物質がありまして、その物質が細胞分裂及び減数分裂も含めて染色体の行動をその中期で中止する物質をもっているということがわかってまいりました。これを抽出していろいろ調べてみた話はいたしませんが、1つの実験の結果 を示します。未成熟の卵母細胞の細胞質にはそういう抑制物質を持たないことを示す実験であります。しかし成熟して受精していない卵の細胞質はその抑制物質を持って細胞分裂を中期で止めている。いったん受精するとその物質は失われてもはや制御物質はこの細胞質の中にはない。そうでなければこの細胞は分裂出来ない。すなわち、分裂中の細胞にはそういう制御物質はない。ただ未受精の成熟卵の中でその第2減数分裂が止まっているそういう細胞の細胞質の中に細胞分裂を抑える物質が存在するということが分かってまいりました。それでこの物質を細胞分裂制御因子サイトスタティックファクター、CSFと名付けたわけであります。CSFをやはりMPFと同じようなやり方で定量 いたしますとそれは成熟が始まる頃に非常に高く活性が上がりまして受精と同時にほとんど0に近くなり、その後現れてまいりません。分子的な性格は何かということでありますが、これは九州大学に今おられます佐方功幸先生が、ちょうどアメリカに留学されておられた頃1989年にアメリカの国立ガン研究所の実験室でやられた実験によってc-Mosと呼ばれる癌遺伝子の産物であるという同定をされました。そしてその癌遺伝子をつぶしたマウスではどうなるか。マウスではやはりカエルと同じように未受精卵は第2減数分裂の中期で止まっておるわけでありますが、その癌遺伝子c-Mosをノックアウトされたマウスでは生まれた卵が受精しなくても細胞分裂を自動的に始めまして決して第2減数分裂の中期では止まらない。従ってc-MosがこのCSFの大事なコンポーネントであるか少くともその機能をつかさどっている遺伝子であるということは判明いたしております。
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