2001.2.1
 
「環境と健康」Vol.13 No.2
健康指標プロジェクトシリーズ

卵成熟の生物学
トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫
 

MPFの精製

 そこでMPFを抽出し、それを精製するという段階に入りました。これは非常に難しかった。大体5年間程やりましたが全く駄 目で私は色々抽出する際の溶液をPHを変えたり或いはイオン強度を変えたり或いはいろんな物質をほり込んだりしてやってみたがどうしても駄 目なんですね。卵をホモジナイザーの中ですりつぶしましてそのうわずみを取るといつも何の活性も持たない。そこで私はMPFは可溶性の抽出できる物質であると勝手に考えておるけれども、これは間違いであるかもしれない、むしろMPFは細胞顆粒に結びついたもの或いは細胞顆粒それ自身なのではないかという疑念が起こってまいりました。そこで細胞をすりつぶさないでプロゲステロンで処理したカエルの卵をフィコールという多糖類の濃い溶液の中に浮かべまして、その上にリンゲル液を乗せまして遠心分離いたします。そういたしますと卵は浮いたままで少しずつ内部の重いものから卵の底の方へ沈澱いたします。すると、卵黄顆粒、色素顆粒、ミトコンドリア、小胞体、それから可溶性成分、脂肪顆粒という具合に重さの違いによって層になって分かれてまいりました。そこで1つ1つの層から抜き取りまして卵母細胞に注射することによってMPFの活性を調べてみたわけであります。そういたしますと果 せるかなMPFは可溶性成分に一番強く現れてきたわけであります。それなら何故今まで抽出が出来なかったのか。そこで思いあたりましたのは細胞をすりつぶしていたからだということであります。細胞をホモジナイザーの中ですりつぶしますといろんなことが起こりまして、例えば、いろんな顆粒、特に卵黄なんかでも傷がついて壊れます。その時にいろんな有害な物質が放出されると。そういうことをなくして抽出する方法というのは細胞をすりつぶさないで重力によってこれを抽出するということであります。それで次のような方法によってこれを抽出したわけであります。つまり、卵をプロゲステロンで処理いたしまして、それをぎっしりと遠心分離の管につめましてそのまますぐ遠心分離機にかけまして重い顆粒を全部下へ沈めてしまうわけであります。そうしますとうわずみに可溶性成分が残りますが、この可溶性成分をテストいたしますとやはりMPFの活性が出てきたわけであります。

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