「環境と健康」Vol.13
No.2
健康指標プロジェクトシリーズ |
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卵成熟の生物学 |
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トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫 |
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卵成熟因子MPF そこで、一体それならどういうことによって卵成熟が誘導されるのであるかという問題になります。そういたしますと脳下垂体ホルモンはまず第1に濾胞細胞に働いて濾胞細胞がプロゲステロンを出し、プロゲステロンが表皮に作用して、核の中には変化が起こる。従いまして卵母細胞の表面 から卵の核であるジャーミナルベシクルまでそのシグナルを輸送する物質Xなるものが存在しなければならないという結論に達します。この結論を確かめる為に実験をいたしました。それはまず第1に卵母細胞をプロゲステロンで処理しておきまして、しばらく経って卵母細胞の核が消失する直前にこの細胞質を抜きまして、それを次のプロゲステロンで処理していない卵母細胞に注射いたします。そうしますとやはりこの注射した細胞質によって卵成熟が引き起こされる。やはりXというものは存在したわけであります。このXは核の産物ではないということは次の実験で証明されたわけであります。と言いますのはまず最初に核を抜いておきます。その核のない卵母細胞をプロゲステロンで処理してその細胞質を抜きましてやはり注射いたしましてもこのXなる物質なるものがあるらしく、注射された卵母細胞に卵成熟を誘導することが出来たわけであります。もしも卵母細胞をプロゲステロンで処理せずに同じことを繰り返しましても、効果 はございません。従いまして結論として表面に働いたプロゲステロンはそのシグナルを細胞質のある物質に受け渡ししている。その物質が核に働いて減数分裂或いは卵成熟の核変化を引き起こすのだという結論に達しました。従いましてこの物質は卵成熟を促進する物質でありますからマチュレーションプロモーティングファクターMPFという名前を付けたわけであります。MPFというものが一応存在するということが分かりますと、今度はその定量 をしなければ精製出来ないわけであります。それで色々実験を繰り返してみたのでありますが、そのうちの1つの面 白い性質は自己触媒性ということであります。と言いますのは、プロゲステロンで処理した卵母細胞に含まれたMPFは細胞質に移植しますとプロゲステロンで処理されていない卵母細胞を成熟させますが、同時にそれはまたその細胞質の中にMPFを作るわけであります。この実験を何度繰り返しましてもMPFの効力は低下しない。理論的には最初に与えたプロゲステロンはもう何百万倍と希釈されているわけでありますが、それにも関わらずMPFはやはり作られていて成熟を誘導するのであります。すなわち、MPFは何か卵母細胞の中にあるものに働きかけて自分と同じMPFを卵母細胞の中に作るという、いわゆる自己触媒的な作用によって出来てくるものであるという結論になります。
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