1999.12.14

 

  13. 生物の進化と老化
 

 

 さて、ここでようやく老化の科学の本論に入る訳であるが実はこれには多くの学説があるが本当のことは未だ何も分かっていない。それで間接的ながら今まで長々と老化と寿命に関係する内外の要因をさぐることによっておぼろげにでも老化の本態をさぐろうとしたのである。

 理論的に考えれば、地球上に生命が誕生し、それが次々と進化して現在の状況になる為には、生物の個体は死に、その代わり生殖を通じて新しい個体が生じるということを通じて、生物集団は進化しながら維持されて来たので個々の個体に寿命があって当然である。ところが、それだけであれば生物集団にとって大切なのは如何に環境に適応した優れた個体を残していくかということで、個体は生殖を終えればもう用のないものである。実際に卵を生む生物には受精と排卵が終われば早々に死んでいくものが沢山ある。しかしもう少し高等な動物になるとそうはいかない。鳥類では卵を孵化するまで温めてやらねばならないし、鳥も哺乳類も生まれてくる子はひ弱なので餌や乳を与えてやらねばならない。要するに高等な生物では卵や子宮内での発育だけでは不十分で一人前にならない。従って生まれた後にも親が元気でいてくれねばその集団は亡びて了う。さてこの子育ての期間は人間では何年であろうか。20才にならなくても子を生むことは出来るが、生物としてはそれでよいとして人間の特長として文化ということを考えるとその伝承まで含めると一世代30年で、これを次々と重ねるとすると60年の寿命が必要である。いやそんなことはない、歴史に見るように人生50年に満たない時代にも我々の文化は発展して来ている。従って文化の伝承まで考えても60年も必要ではない。しかし現に我々は人生80年の時代に突入しているではないか。

 最近こんな論文を読んだことがある。生物の寿命を決めている大きな要因として捕食者の問題を考えるべきであるというのである。鳥は空を飛ぶことによって、亀は厚い甲良をつけることによって、それぞれ捕食者から逃げることができるようになり、それだけ長生きをすることが出来るようになったというのである。人間はそれを頭脳によって獲得したので本来の寿命いっぱい生きられるようになったというのである。如何にももっともらしいが、説明にはなっても証明は難しいであろう。

 現在の生命の科学は遺伝子の時代である。ヒトの遺伝子を全部解明しようという膨大な計画が進められている。遺伝学的には本講の初めに見た平均寿命15才に満たない石器時代から現在まで我々人類は同じ遺伝子を持っている筈である。ではその当時役に立たなかった生殖年令以後の生存(老化)にかかわる遺伝子は一体どんな淘汰と進化をへて決められたものなのであろうか。上に述べたのもその説明の一つであるが、ここまで考えると老化の科学は如何に深渕なものでなければならないかが分かるだろう。それにしては現在の我々の科学は、老化を考えると遺伝学を含め未だ未熟なのである。

 そうばかりも言ってられないので、以下に今分かっている範囲で老化の理論を考えてみよう。

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