1999.11.1

 

  12. 環境問題と健康
 

 

 今まで論じてきた成人病を人体側の問題とすると人体外からの影響として環境の問題がある。かつては工場などの排気排水による公害が大きな問題であったが、幸いにわが国では規制が徹底され、後遺症に悩む人々の問題は残っているがもはや直接健康に障害を与え長寿に支障を来すようなものは見られない。ただ大都会の自動車の排気ガスの問題があるが平均寿命で見る限りその影響は見られない。札幌、仙台、千葉、横浜は全国平均以上であり、京都、東京都、川崎、名古屋、広島などは平均に近い。しかし、大阪、北九州のように例外的に最下位に近い市もあるが、これが大気汚染以外に何かほかに原因があるかどうか研究が必要である。

 最近この他に内分泌攪乱物質のような新たな環境問題が問題になってきている。今のところ主に水性の野生生物などに生殖器の異常としてみられ、これが人にどのようなリスクを与えるかはこれからの課題である。老化という点では大豆に含まれる女性ホルモン様物質が更年期の女性に有用に働いている可能性などを考えると更に研究が必要であろう。

 これからの環境問題としては地球温暖化やオゾン層の破壊による太陽紫外線の増加などの所謂地球環境問題を忘れることは出来ない。これらが我々の健康にどのように影響し、それが健やかな長寿をおびやかすことになるのであろうか。これらの環境変化はいろいろと予測されてはいるが、未だ明確な形であらわれていないので人体影響の方も関連するデータを使って予測をすることになる。これを専門用語では健康リスクの予測と言う。

 地球温暖化については、アメリカなどでは華氏100度(摂氏38度)にもなると死亡率が増加するというデータがあるが、わが国ではこれから30年後に平均気温が1〜2度上がってもその為の直接的な死亡の増加は考えられない。それよりは温度上昇による環境そのものの変化、たとえば海面の上昇、マラリヤ蚊などの増加、光化学スモッグの増加などが考えられる。しかし、一番端的に死亡の増加につながる可能性のあるのは台風の増加とそれによる災害死ではないかと私は推測している。気象年鑑によるとこのような気象災害の一件当たりの平均死者、行方不明者数は1950年頃は400〜500人にも及んだのが1975年以降防災努力によって60人前後にまで減り最近ではさらにその半分以下になっている。

 太陽紫外線の増加は現実に徐々に起こりつつある。この場合は影響の程度は皮膚の色で大きく異なる。ことにオーストラリア、ニュージーランドなどには北欧からの移民が多く皮膚癌が多発している。ここでは紫外線の増加にそなえ昼ざかりに戸外へ出ないようにとの指導が小中学校などで行われている由である。わが国ではそこまで神経質になる必要はないが、ビタミンDの生成には普通の生活で受ける太陽光で十分であるので、むりに陽に焼かないようにおすすめする。皮膚の問題はがんもメラノーマを除いては死亡率が低く、皮膚の老化も個人的な単なる美容の問題として扱われた傾向がある。しかし、最近の太陽紫外線の増加、免疫系など皮膚と全身の健康との関係についての研究の発展などを踏まえ、注目を集めるようになった。われわれもその為の研究組織を作って全国規模の実体調査を始めたところである。

 老化と紫外線との関係では白内障のことを忘れるわけにはいかない。白内障の予防のためにも太陽紫外線から目を護ることが必要である。

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