1999.11.1

 

  11. 寝たきりと痴呆
 

 

 社会が高令化すれば今でも問題になっている寝たきり老人や、痴呆老人がふえ社会の負担が大変であると心配されている。ことにわが国ではこれに対する政府や社会の対策が十分でないとよく批判される。しかし老化研究の立場から言えば、先づなすべきはその本態の解明と予防ではなかろうか。

 寝たきりの方は比較的明瞭で、寝たきりは実は寝かせきりであったということである。日本人は昔から病気には安静第一という考え方が強く、私なども子供の頃に風邪を引いて学校を休んでもうっかり起きて遊んでいると、寝ていなさいと叱られたものである。脳卒中で半身不随になればもとより、骨折などで動けなくなるとそのままいつまでも寝かせておいて結局とうとう起きられなくなって了ったというのが寝たきりの実体であろう。これに対して最近では寝た切りの老人を作らないように地域や病院で、食事には起きて食堂にいくといったことから始めて寝たきりを零にする運動が進められ多くの成功例が報告されている。このもとになる脳卒中は最近減少しているが、もう一つの老人の骨折が問題である。これを防ぐために骨のカルシウム量を調べ、へりすぎて骨が脆くならないように運動や食事の指導、必要であれば投薬といったことが行われている。

 問題はいわゆるボケという老人性痴呆のことである。これには脳の血行障害で起きるものと、遺伝も含めた今のところ原因不明のアルツハイマー病とがある。わが国では今まで血行障害のものの方が多く、これは血行改善である程度の治療が可能であったが、最近ではより難しいアルツハイマー病の方がふえて来ているようである。最近の研究(1999)によると、60歳以上の痴呆の有病率は7.2%で、この内男性ではアルツハイマー病が2.0%、血管性痴呆が2.0%;女性ではそれぞれ3.8%と1.8%でアルツハイマー病の方が多い。また痴呆は年齢と共に増加するが10歳増加で、アルツハイマー病では約6.3倍、血管性痴呆では2.0倍で前者の方が年齢の影響が大きい。

 しかし実際にこの二つを区別することは素人には難しいので痴呆が疑われたら先づ専門医に診てもらうことである。私の知人の母が90才で、年のせいでぼけて困っているというのを専門医に紹介して診てもらったら、何とかぼけから開放されたと喜ばれた例もある。

 アルツハイマー型痴呆には脳の広範囲にわたる萎縮と大脳皮質に老人班と神経細胞に神経原線維変化と呼ばれる沈着物が見られるという特長がある。後の二者は分子による変化であるので、その本態、それを支配する遺伝子などの研究が急速に進んでおり、その成果が予防、治療に役立つ日がくるのが待たれる。

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