1. はじめに
はるかな昔、ビッグバンという大爆発が起こって宇宙が誕生したと考えられています。誕生したばかりの宇宙には、やがて原子をかたち作る粒子が満ちあふれ、粒子同士の反応や原子の中心にある原子核の崩壊と合体が繰り返され、たくさんのエネルギーを持った「放射線」が放出されました。宇宙にはこのとき以来、無数の放射線が飛び交い、いまに続いています。
私たちの住む地球は、宇宙に漂う塵や小さい惑星が集まって火の玉となり、約46億年前に生まれたのです。その時、地球には、金や銀、銅や鉄などの貴重な元素(原子の種類)とか、ウランやトリウムなど放射線を出す元素(放射性元素)が集まったのでした。
やがて、地球は冷えて固まり、大雨が降って海となり、大気ができました。そして30数億年前、放射線の飛び交う中で生命が生まれました。「生命の起原」−すなわち私たちの遠い遠い祖先の誕生です。
そして、地中の放射性元素から放射線が出され続けています。さらに、星の爆発などによって宇宙のかなたから地球にやって来る放射線(宇宙線)は、地球の大気によって弱められはしますが、常に地表に降り注いでいます。つまり、私たち生物は、生命の誕生以来ずっと宇宙と大地からの放射線を受ける環境で生活しているのです。
大地を構成している土、砂、砂利、岩石にもウランやトリウムなどが含まれていて、放射線を出しています。このため、私たちは日常、地面からだけでなく、コンクリートの建物の中でも、壁や天井、床などから出ている放射線を受けています。それは、コンクリートの骨材である砂や砂利が放射線を出しているからです。
最近、三宅島や浅間山が噴火しましたが、高熱で溶けている地下のマグマが地上に出てきてできた岩石の一つに花崗岩(かこうがん)があります。花崗岩には、金や銀などの貴金属や重金属が含まれていることが知られていますが、放射性元素です。ウランやトリウムも入っているのです。そのため、御影石で造られた鳥居や墓石、道路の敷石などから出ている放射線を測定することができます。
わが国には、各地に温泉があり、にぎわっています。温泉浴は、その成分の体への効果だけでなく、のんびりした気分を味わうという精神的な効用もあると言われています。
温泉の成分に、ラジウムやラドンなど放射性元素を含むものがあり、これを「放射能泉」と言います。地中の熱い水が湧き上がる途中で、これらの放射性元素を溶かして出てきたのです。ラジウム温泉は、秋田の玉川温泉をはじめ、増富(山梨県)、池田(島根県)、有馬(兵庫県)、三朝(鳥取県)などが有名で、増富と三朝はラドン温泉としても知られています。
外国でも放射能泉はむかしから大変人気があって、ヨーロッパ、東欧、ロシア、地中海沿岸などに温泉保養地があります。とくにオーストリアのザルツブルク南方、アルプスに近いバドガスタインには、たくさんのホテルが立ち並び、古くから繁盛しています。
このように、地球にある自然の放射性元素は、人体も含め、環境中のすべてのものにさまざまな濃度で存在しており、私たちが暮らしている地球の土や岩石に含まれているカリウムやウラン、トリウムなどは、いつも放射線を出しています。