2002.4.8

 

 

16. 「脳は使わないでいると退化する」と言うのは本当か?

 


 これは2月に紹介したダグラス・H・パウエルの「<老い>をめぐる9つの誤解」のなかの一章です。私は常々自分で身体は老化して衰えても、頭だけは使っていれば衰えないと思っていましたので、これが誤解だというパウエルのこの章は大変気になるので何度も読み返してみました。この章の初めに次のように書かれています。

 “認知力の老化についてとっておきの、真実以外の何物でもないと久しく信じられてきた民間伝承は、おそらく、「脳は使わないでいると退化する」という考え方であるに違いない。これは、頭を働かせているかぎり知的な技能を維持することができるけれども、それを使っていない人たちは、歳月の経過とともに認知力を失ってしまうことを意味している。(中略)その理論的な根拠は、きわめて明白で信頼に値するものっと思われた。困難な課題の解決に知能をふりむけていれば、高齢になったとしてもそうした技能を最晩年まで維持できるからである。”

 そこで、幾つかの実際の調査結果が報告されています。例えば高齢と若い大学教授とについて比較したものを代表として、その他のいろいろの職業について同じ職業に従事している高齢者と若者を注意深く比較したもの、などがあります。それらの結果は常に同じで、若者の得点は高齢の同僚のそれを上まわっているのです。それでも多くの研究者は「脳は使わないでいると退化する」という理論が否定されたとは考えないで、この得点の違いは現在従事している仕事が違うから見かけの違いがでたのだと理由付けしてきたのです。

 では真実はどうなのでしょうか。高齢の教授は10も20も年の若い教授と比較すれば、知的な技能が衰えていることは否定出来ないということのようです。それでも勿論全く脳を使わなかった人と比べれば衰えの程度は違います。しかし、何時までも同じ能力が保たれているとうぬぼれない方がよいようです。むしろ「脳は使っていないと退化する」という理論を誤解と認識することによって、私たちはしだいに衰えていくいくつかの知的な技能を埋め合わせる建設的な行動をとることができる、とパウエルは言っています。其の基本は前に書いた選択、最適化、代償です。より具体的にはパウエルは次のようなことを言っています。

 “「経験を重視する」、「これまでと一味違った仕事ぶり」、「環境的な支援を積極的に受ける」、「必要に応じてトレーニングの必要性を組織に納得させる」、「仕事に対する意欲を持ち続ける」、「高齢者差別を自らに課す愚を避ける」”

 このうち最後の言葉は少し分かりにくいと思いますの解説を加えます。高齢になれば若いときの知的能力を維持する事はできません。それを自分で現実以上に大きく評価して自虐的になるな、と言うことです。年をとって若いときのようには出来なくとも、まだまだ出来ることが沢山あるはずです。それを自信を持ってやることが大切だとおもいます。

 今日の話は多少逆説的で分かりにくい出だしでした。要は頭は如何に使っていても年をとればある程度の衰えは避けられないと思わなければならないようです。そこで、脳を工夫しながら積極的に使うことで、意義あり楽しい老年時代をすごそうではありませんか、というのが私の呼びかけです。今日の話で其の使い方に何らかのヒントが与えられれば幸いです。