2002.3.4

 

 

15. 逆に考える

 

 

 「逆に考える」などと何かひねくれたことを考えているのだろうと思われるでしょう。しかし、実はそうではなく、これが私達の常識だということを説明しようと思うのです。

 「先生は八十にしてはお元気ですね。その秘訣は何ですか。」と質問されます。これに対して私は、今までの日常を振り返って「そうですね。****」と答えるとしますと、これは時間を逆に遡って考えるわけですから、正に「逆に考える」になるわけです。これを難しい言葉では逆問題と言います。これと反対にものが順問題です。順とか逆というのは、科学者がつけた言葉で、順というのは原因があって結果が生じる、という科学的に順序通りだということです。逆問題では結果から原因を探ることになります。科学者は順を重んじますが、一般の人は実は大抵逆問題をといているのです。またその方がよく納得できます。

 ニュートンがりんごが木から落ちるのを見て万有引力を見つけた、と言いますが、それが事実かどうかは別として、このように言われると成る程と納得するではありませんか。りんごが落ちたという現象は結果です。これから遡って原因である引力を考えたわけですから、正に逆問題です。私達の毎日はこのような逆問題にあふれています。朝目がさめたら頭が痛くむかつきがする。これは二日酔いだと気付きますが、それから昨晩のことを思い出すでしょう。これは確かに逆ですね。お酒を飲みすぎると二日酔いになるということは順問題として分かってはいるのですが、それを考えながらお酒を飲むというようにはいかないものです。即ち人は理屈で順問題は理解しているのですが、現実は逆問題の人生を渡っているというのが現実です。

 逆問題はもっといろんなところで大切な働きをしています。お腹が痛いのでお医者さんに診て貰いに行くとします。お医者さんは、早速昨日何を食べましたか、から始まりいろいろと今までの経過を聞くでしょう。そうです。医者の診断と言うのは逆問題の代表的なものです。最近でこの逆問題はさらに技術的に発展して病院で活用されています。例えば身体の中の構造を切らずに切ったように見せてくれるCTというのがありますが、あれはX線による人体の影絵を逆に合成した正に逆製品なのです。

 しかし、科学者は原因から結果への流れを調べることをその仕事にしていますから、どうしても順問題に拘ります。そこでその理屈で人を説得しようとするのです。しかも最近では原因から結果が現れるまでに随分と時間が掛かるものが多いものですから、なかなか素直に理解出来ません。たばこを飲むと肺がんのリスクが8倍になりますよ、と言うのは順問題としての説明です。でも一向に禁煙する人は増えません。でも一旦病気になって、これはたばこを飲んでいては治りませんよ、と逆問題としてぶつけられると、大抵の人が禁煙するのではないでしょうか。

 今は多くの人が健康に関心をもって、元気に長生きをしたいと願っています。そこでそれにはどうしたら良いかということになります。日本人は世界一の長寿だから、そこから良い知恵は得られないか、さらにその中でも沖縄が日本一なので、沖縄の長寿に習えと言われます。ここで何を食べたらよいというのは、順問題か逆問題か分かりますか。これは今長寿の人が昔どのような物を食べ、どのような生活をしていたかということによるわけですから、逆問題になります。科学者はこれは科学ではない、順問題として、これからそのような物を食べ、そのような生活をしたら本当に長生きするかどうかを調べる必要があると主張します。しかし、そんなことは実際には出来そうにありません。逆問題でもよいから、そこで得られた知恵を生かして食べ物や生活を工夫していこうというのが賢いやり方ではないでしょうか。このようにして日本食のよさが見直されていることはよくご存知の通りです。それを科学者がどのように順問題として裏付けていくか、それこそ私たちに課された課題としていま懸命に検討しているところです。