2001.1.1

 

 

1. 八十路からの健康談議 (1)

 

 

 これから健康をめぐるいろんな問題ことに高齢化の進んだ我が国での話題を中心に自由に話してみたいと思います。実は私の専門は放射線生物学ですが、それを始めた50年位前には放射線は老化を促進するのではないかという説があり、放射線と老化というのは興味ある話題でした。そこで他の分野の研究者にも呼びかけて老化の基礎研究というのをはじめました。それは今から30年も前の話で、老化の研究など泥沼に足をつっこむようなものだから止めた方がよいと忠告してくれる友人もいました。でもそれが発展して基礎老化学会になり、社会も高齢化が進んで老化の研究に注目するようになってきました。肝心の放射線と老化の関係ですが、その後放射線で寿命が短くなるのは老化が進むせいではなく、放射線でがんが増えるためだということになり、老化研究は放射線から離れました。しかし最近また高線量の放射線を受けるとがん以外の心臓病や糖尿病なども増加する傾向があるということが言われるようになり、もう一度研究は振り出しに戻った感がします。

 それは兎に角として、私自身は若い間は研究その物は別として、一般 のひとに向かって老化とはとかその時健康を護るにはとか話をするのはためらわれました。ようやく75才になった時に「第2の人生の楽しみ」(共和書院1996年発行)という題で高齢化を中心とした一般 向けの健康に関する本を初めて出版しました。そこではある程度自分の老いの経験についても語ってみました。それが今度自分が80才になった(正確には2月にですが)のを機会に、より積極的に学問と体験とをつき混ぜて自由に論じてみようと思うようになりました。それは実は2年程前にマルコム・カウリーという人の「八十路から眺めれば」(田村完誓訳草思社1999年8月発行)という本を読んで感銘したからなのです。この本の帯には“老いてみなければ、見えないものがある――八十路を越えた者だけに眺められる人生の深い味わいを、稀代の名文家カウリーが滋味豊に綴る”とあるのです。そこで私はこの日の来るのを満を持してまっていました。それが丁度21世紀の始まりというのも楽しいものです。さて、大分前置きが長くなりましたので今回はこれくらいにして後は次の楽しみとさせて頂きます。一寸ここらで一休みしないと話が続かないのも八十路のせいかもしれません。悪しからず。