2001年2月のトピックス |
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(財)体質研究会では2年前の1999年に「要素非還元主義に基づく健康指標の研究(略称:健康指標)を始め、月例の講演会、計画および公募の研究助成を行ってきました。講演会の記録は順次準科学雑誌「環境と健康」に掲載してきましたが、平行してこれを読みやすい科学書として出版することを計画していました。幸いこの度(財)慢性疾患・リハビリテイション研究振興財団の出版助成をえることが出来、これを順次刊行することになりました。 これがシリーズ「21世紀の健康と医生物学」です。出版社は昭和堂で2月にはそのうちの初めの2巻;第一巻「いのちを創る」(菅原 努、山岸秀夫編)、第二巻「環境を生かす」(菅原 努、山岸秀夫編)を発行します。2月下旬には店頭に並ぶ予定です。単価は何れも1,900円です。 以下にそのシリーズのまえがきを紹介しておきます。 シリーズ「21世紀の健康と医生物学」まえがき |
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菅 原 努
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20世紀の医生物学は、19世紀に始まった病気の組織学的な解明、外因としての病原体の検索の上に、生化学的な機構解明をすすめ分子の病気から最後には遺伝子へと、要素還元主義を一路邁進してきたように思われる。21世紀早々にはいよいよヒト遺伝子の総てが解明されると予想されている。しかし医学をこの要素還元的な科学の応用として押し進めようとしてきて、反対にその限界を、あるいは総合的な見方の必要性を痛感するようになった私などは勿論のこと、遺伝子の探求につとめて来た多くの科学者自身もポストゲノムを考える時期が到来しつつあることを予感しつつあるように思える。システムズバイオロジーなどと言う言葉があちこちで聞かれるようになったきた。 (財)体質研究会では上記のような状況をふまえ、「21世紀を目指して新しいプロジェクトを−還元主義を超えて−」という主旨で、1999年1月から「要素非還元主義に基づく健康指標の研究(略称:健康指標プロジェクト)」ということで月例の公開学術講演会を開催し、その記録を(財)体質研究会の機関誌「環境と健康」に順次掲載してきた。その後の経過もふまえ、またシリーズの本にまとめるに際してもう一度考え方を整理をしておきたい。私達のプロジェクトも初めはその要素非還元主義という言葉の意義に少なからず曖昧さがあり、内容的にも分子から心までと、とりとめもないように見える点があったが、急速に進む時代の流れと共にポストゲノムとも重なり、次第に目標がみえてきたように自負しているのは私だけであろうか。 ことに今までのいろんな分野からの話を、分かりやすくしかも新しい方向を説得力有る形にまとめるべく、話題をしぼりシリーズにまとめてみると、そこに自ずから21世紀の有るべき姿が自然に浮かび上がってくるように思われる。21世紀の初頭を飾る出版として、第一線の研究者の生の声を生かしながら、表現の仕方に工夫などを試み、読者に考える材料を提供したいと考えた。 要素還元的な手法は神の創られた自然を分析し解明しようとする欧米の文化の得意とするところで、われわれもそれを科学の手法として彼等から学んできたものである。しかしこの科学の応用と見られている技術の世界では、我が国はすでに世界で冠たるものであることが示されており、それは単に科学の応用ではなく工学として別 の原理と方法を持つべきであるというところまで来ていると思う。同様に人を対象とする医生物学では、要素還元的な追及の後に当然総合的に複雑系そのものに挑む新しい科学が望まれている。それを幾つかの側面 について模索していこうというのがこのシリーズである。専門家があまりにも分科し、自分の狭い領域に閉じこもりがちであったという反省もこめて、このシリーズでは出来るだけひろく学問に関心のある人に読んで頂くことこそ大切であると考えている。その為に専門用語が理解の妨げにならないように、また読者がこれから大いに考察を飛躍していただけるように編集の上で努力と工夫をこらした心算である。 本シリーズは当面次の5冊を企画している。 謝辞:このプロジェクトの実施にあたっては(財)成研会の経済的支援を受けた。また本シリーズの出版には(財)慢性疾患・リハビリテイション研究振興財団の支援をうけた。両財団に厚く感謝する。
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