サーモトロンによる温熱療法のすすめ |
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(Thermotron Update 1996年1月号)
菅 原 努 |
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私のこの考えは何も突然に出てきたものではない。かねてからがん温熱療法は物理学だけでは解けないので、もっと人体の不思議に取り組むことが大切であると主張してきた。そこへ最近心理療法専門家の河合隼雄氏から次のような意見をきいて大いに考えさせられた。“現在の医学はあまりにも科学を志向するために病気をみても患者を忘れ、身体をみても心をわすれている。そのために心身症が問題になっていることは周知の通りである。また、個々の患者と医療者の関係も薄れてしまっている。この関係を重んじて貴重な症例を得ても単なる物語として科学的医学では正当に評価されない。これらを乗り越えて新しいパラダイムによる医療がいまこそ求められているのではないでしょうか。”この時に私の頭に浮かんだのは患者の下肢をマッサージのようにさするというグリッピング法を提唱しておられる名古屋市立大学医学部泌尿器科(当時)の上田公介先生の治療の進め方の話である。そこで先生を訪ねて次のようなお話をききこの考えをまとめた。 “グリッピング法を行うには当然時間も人手もとられます。しかし、この間に患者さんに触れながら話し合うことで、患者の背景因子が把握できますし、医師の力も誠意も伝えることができます。さらに、患者さんの家族の方々がグリッピングに加われば、がんで苦しむ患者さんに家族が積極的に協力できるというメリットも生まれます。今の医療に欠けているかなりの部分がこの温熱療法によって、取り戻せるのではないでしょうか” これらの事をふまえてグリッピング法をふくめて患者と医療者との関係を深め、ここに加温効率をあげるだけでなく新しい医療の枠組みを作っていこうと言う呼び掛けとして、従来の温熱療法よりも一歩も二歩も進んだという意味で超温熱療法という提案をする。このような話を2、3の方々としていたら、もう一つ現在のサーモトロンの使い方を越えたやり方で成果をあげておられる若い医師がいるという話をきいた。そこで早速九州にとんで産業医大放射線科の今田肇先生を寺嶋廣美先生に紹介してもらってお二人の話をきいた。これもこの超温熱療法に加えたい。それは患者の理解と協力が得られ、サーモトロンを上手に使いこなせばまだまだ成績は向上させうるという意味である。このような形でサーモトロンがより広く活用されれば、がん治療の上で大きな貢献をしうるであろう。さらにそればかりでなく、さらに各方面から第2、第3の超温熱療法の提案があれば、こんな幸いなことはない。加温が十分にできれば従来の併用のほかに温熱単独ということも考えられるようになるであろう。 超温熱療法の実際−1 サーモトロンを使い加温をすることは従来の温熱療法と同じである。しかし、大切な点は医師がグリッピング法を行いながら患者と会話をし患者と共に治療を行うという点にある。できればさらに患者の家族もこれに加え、みんなで病気と闘うということである。これによって容易に43度以上の加温が達成でき、しかも患者に苦痛をあたえない。 この間、医師は患者と1時間以上の時を一緒にすごさなければならないが、これは手術の時の事を考えてみればよい。 手術では医師はその間懸命の努力をするが残念ながら患者はこの間麻酔のもとにあるので互いに言葉を交わすことはできない。いわば一方的な治療と言わねばならない。 しかし、サーモトロンの場合は互いに心を通わせながら力を合わせて治療することができるのである。この点が今までの治療にはない点で私が“超”とつけた理由である。 次にいくつか具体的な点を上田先生の話からまとめた。
超温熱療法の実際−2 産業医大では放射線科にベッドがないので、各科からの依頼により放射線・温熱療法を行っている。それには各科との合同カンファレンスでの相互理解が大切で、それによって現在では肺癌、食道癌、子宮頸癌の患者はそれぞれの科から温熱療法も合わせた依頼が来るようになった。従ってサーモトロンによる治療もふえ月曜から金曜まで毎日5、6名の治療を行っている。 2年前に放射線衛生学での研究生活を終えて放射線科に移った今田先生はサーモトロンで何とか難治がんをCR(Complete regression,完全消失)に持って行きたいと努力をして来て、初めはそんなに急にパワーを上げては危険ではないかと反対する寺嶋先生と討論しながらも、徐々に初めのパワーを上げていった。そこで現在では患者の体格を見ながらいきなり1,300〜1,500ワットの出力を障害なく加えられるようになった。 患者に痛みなどの苦痛をもたらすのは高周波が流れることによるのではなく温度的なホットスポットができるためである。すなわちある程度、温度が上がってからである。従って急激にパワーを加えても、まだ全体に温度の低い間は痛みなど生じない道理である。こうして最初から十分パワーを加えられると、それだけ加温性能は向上することになる。なお、その後部分的痛みを訴えた時も、そのままで電極やボーラスを少し動かし、ゴム手袋をはいた手を痛む部分に入れて汗などをちらしたり(同時に術者の手がふれる一種のグリッピング効果もある)して、痛みをとっている。 これによって高い治療効果を得ているほか、一定のコースの後になお腫瘍の残存がある時は、ハイパーサーミアには蓄積性の副作用がないので、さらに繰り返し治療ができること、患者が慣れて十分に加温ができることも考えて、ハイパーサーミアを続けている。 このやり方は、まだ始めて期間が短いので、長期の治療効果が見られる日を待っている。 さて、この治療で患者との精神面はどうなっているのだろうか。 患者は必ずしも告知を受けている訳ではないが、主治医によるハイパーサーミアを加えた治療についての説明があり、放射線科においてさらに詳しい説明をして了解を得ている。 なお第一回目の加温の後に、患者に続ける意志があるかどうかを訪ね、患者の了解をとりつけている。今まで第一回の加温で拒否された例は数パーセントである。 しかし、何よりも大切なのは全治療中に今田先生が研修医の協力を得てつきっきりで治療にあたっていることである。 この先生の熱意に接してはどの患者も喜んでこの治療を受けようとするのではなかろうか。 それには自分の主張にこだわらず患者本意に考えるオープンマインドの医師が多くいることが必要であるが。 科学的医学としての温熱療法では、できるだけ多くの温度測定をすることが要求された。しかし、心身共にリラックスして治療を受けるようにするためには侵襲的なことは余り得策でないことを念頭に置くべきである。間接的測温、部位を流れる電流量や腫瘍の縮小などから十分な加温が確認されることもあるであろう。この点のつっこんだ研究が望まれる。 |
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