2004.12.1

             
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リスクと生活

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火災事故のリスク50年(7)
《歳月とともに変わる出火原因の傾向(2)》

主任研究員 武田篤彦


1. 基礎データ

  • 出火原因の種別(火災年報=総務省消防庁・各年)
     種別は1950年代前半に設定され、変更が加えられて今日にいたっています。
    (1)現在まで続行しているもの(22種類):煙突・煙道、かまど、交通機関内配線、こたつ、こんろ、ストーブ、たき火、たばこ、電気装置、電灯・電話等の配線、灯火、取り灰、内燃機関、配線器具、火遊び、風呂かまど、放火、放火の疑い、マッチ・ライター等、炉、その他、不明・調査中
     以下の種別については、先月の「歳月とともに変わる出火原因の傾向(1)」をご参照。
    (1)昭和50年代に設定され今日まで継続しているもの(22種類)、(2)現在までに廃止したもの(約16種類)、(3)記録に中断のあるもの(2種類)、(4)1988年に開始したもの(7種類)。   

2. いくつかの出火原因にみられる出火件数の暦年経過の比較

  • 10種類を選んで紹介することとし、そのうちの4種類(たばこ、マッチ・ライター等、こんろ、風呂かまど)については先月に掲載しました。今月は6種類、ストーブ、こたつ、たき火、火遊び、配線器具、電灯・電話等の配線について紹介します。

  • 「ストーブ」と「こたつ」の出火件数の暦年経過の比較(図1)
     1960年〜1970年代の暖房の主役は石油ストーブで、エアコンが幅を利かせている今日でも、補助的な役割を果たしています。初期には転倒による出火がしばしばで危険視されましたが、維持費が安価であり、安全策や臭気対策にさまざまな工夫が重ねられたため、幅広い使用が続いています。「ストーブ」に着火物が接触して引火するなどが、出火傾向の低下を阻んでいるのではないでしょうか。「こたつ」は対照的に、今日、その役割を終えて引退しつつあることを示しています。

  • 「たき火」と「火遊び」の出火件数の暦年経過の比較(図2)
     「たき火」は主におとなにより屋外で、また「火遊び」は子どもを主体として屋内外の双方で行なわれるものとすると、両者の暦年経過の類似性には驚かされます。直線的な上昇が1973年まで続いた「たき火」は5.0〜8.6倍、「火遊び」は3.5〜4.5倍に達しています。下降傾向は1980年に顕著になり始め、1990年には、それぞれ約4.5倍と約2倍とになり、以後は今日まで緩やかな下降傾向を持続しているとみることができます。山林労働などにおけるクルマにより自宅を往復して昼食を摂る習慣の増加や冬季気温の上昇などが、「たき火」の頻度にどのような変化を与えているかや、最近は外で遊ばず室内でパソコンに熱中する子どもの増加が、「火遊び」による火災にどのように影響しているかは不明ですが、いずれも興味を惹かれます。それにしても、5倍を超える「たき火」の高率は、むかしから厳しく伝承されてきた“たき火のマナー”の喪失を感じさせるものです。



  • 「配線器具」と「電灯・ 電話等の配線」の出火件数の暦年経過の比較(図3)
     「配線器具」のグラフをみると、出火割合は1990年に入って急に上昇していて、これまでに紹介してきた出火原因の多くが1970〜1980年代にピークをもち、その後はしだいに低下しているものが多いのに比べて、異なった様相を呈しています。「配線器具」が具体的にどのようなものを指すのかは不明ですが、埃の溜まり易い旧式のソケットやテーブルタップであったり、過負荷通電とかが原因になっているのかも知れません。ここにはデータを示しませんが、たとえば出火原因「その他」は通常かなりの件数で構成されているので、出火原因の同定にあたって判断基準が僅かでも更改されることがあれば、特定の出火原因の件数は「その他」から移動していくことになります。ここでの変動は1993年の2.7倍から2001年の5.5倍まで段差のないほぼ直線的な増加であり、今後の推移が注目されます。なお、「電灯・電話等の配線」は、この期間を通して微増にとどまっています。


表 いくつかの出火原因についての出火件数の経年推移
(( )は1954年を1としたときの比較)

暦年
全火災件数
ストーブ
たき火
火遊び
配線器具
1954
27,870( 1 )
 745( 1 ) 1,149( 1 ) 1,649( 1 ) 191( 1 )
1959
36,913(1.32)
 865(1.16 ) 1,487(1.29) 2,447(1.48) 230(1.20)
1964
49,020(1.76)
2,588( 3.47) 2,895(2.52) 3,976(2.41) 226( 1.18)
1969
56,797(2.04)
2,314( 3.11) 4,536(3.95) 5,161(3.13) 435( 2.28)
1974
67,712(2.43)
2,615(3.51) 8,041(7.00) 5,766(3.50) 539(2.82)
1979
63,794(2.29)
2,515(3.38) 7,649(6.66) 6,258(3.80) 440(2.30)
1984
63,789(2.29)
2,940(3.95) 7,713(6.71) 4,894(2.97) 462(2.42)
1989
55,763(2.00)
2,389(3.21) 4,548(3.96) 3,686(2.24) 507(2.65)
1994
63,015(2.26)
2,153(2.89) 7,964(6.93) 3,134(1.90) 625(3.27)
1999
58,526(2.10)
2,002(2.69) 3,420(2.98) 2,254(1.37) 897(4.70)