火災事故のリスク50年(6)
《歳月とともに変わる出火原因の傾向(1)》
主任研究員 武田篤彦
1. 基礎データ
- 出火原因の種別(火災年報=総務省消防庁・各年)
種別は1950年代前半に設定され変更を加えられて今日に至っている。
(1)現在まで続行しているもの(22種類):煙突・煙道、かまど、交通機関内配線、こたつ、こんろ、ストーブ、たき火、たばこ、電気装置、電灯・電話等の配線、灯火、取り灰、内燃機関、配線器具、火遊び、風呂かまど、放火、放火の疑い、マッチ・ライター等、炉、その他、不明・調査中
(2)現在までに廃止したもの(約16種類):火鉢、火消壷、乾燥場、汽車煤煙、ガス、漏電、電灯、電熱器、油引火、セルロイド、フイルム、火薬、薬品、機械、自然発火、雷火など (3)記録に中断のあるもの(2種類):かまど(1988〜1994)、炉(1980〜1996)
(4)1988年に開始したもの(7種類):焼却炉、衝突の火花、電気機器、排気管、火入れ、ボイラー、溶接機・切断機
2. いくつかの出火原因にみられる出火件数の暦年経過
- つぎの10種類を選び紹介することにしましたが、このうちの6種類は紙面の都合で次回に掲載します。なお、関心の高い「放火」と「放火の疑い」の紹介は、次々回(1月)に行ないます。「たばこ」と「マッチ・ライター等」(図1)、「こんろ」と「風呂かまど」(図2)、「ストーブ」と「こたつ」(次回)、「たき火」と「火あそび」(次回)、「配線器具」と「電灯・電話等の配線」(次回)
- 「たばこ」と「マッチ・ライター等」の出火件数の暦年経過の比較(図1)
「たばこ」による出火は1970年代全体がピークで、寝タバコやポイ捨てなどの自粛や喫煙習慣の衰退が奏効しているようにみえます。「マッチ・ライター等」の推移が、一見「たばこ」のそれと類似しているようにおもわれますが、基準値(1)と大差がないことから、その重点は喫煙以外の使用に起因するようにみられます。
- 「こんろ」と「風呂かまど」の出火件数の暦年経過の比較(図2)
以前、地方都市を中心に厨房の熱源として多用されてきた、焚き木、炭や練炭はプロパンガスにとって代わられ、慣れない気体燃料の利用が全国的に急速に普及していきました。そしてそれが“天ぷら鍋の引火”に象徴される、火災件数の増加を招いたのではないかと想像されますが、厨房の合理化が図られつつあるいっぽうで、この出火件数の減少は遅々として進んでいません。
「風呂かまど」については、1980年に5.5倍に激増したのち減少に転じています。自宅入浴の普及が好景気を反映したものかどうかはわかりませんが、浴室の構造欠陥による空焚きや引火の増加も考えられます。減少傾向には、焚き木などが姿を消すとともに都市ガス、プロパンガスや鉱油を熱源として自動制御や給湯方式による間接加熱など、安全策の推進が役立っているようにおもわれます。
- 「ストーブ」と「こたつ」の出火件数の暦年経過の比較(次回)
- 「たき火」と「火遊び」の出火件数の暦年経過の比較(次回)
- 「配線器具」と「電灯・電話等の配線」の出火件数の暦年経過の比較(次回)
表 いくつかの出火原因についての出火件数の経年推移
(( )は1954年を1としたときの比較)
暦年
|
全火災件数
|
たばこ
|
マッチ・
ライター等
|
こんろ
|
風呂かまど
|
1954 |
27,870( 1 )
|
2,168( 1)
|
851( 1)
|
2,741( 1)
|
683( 1 )
|
1959 |
36,913(1.32)
|
3,185(1.47)
|
1,288(1.51)
|
4,248(1.55)
|
907(1.33)
|
1964 |
49,020(1.76)
|
5,951(2.74)
|
1,889(2.22)
|
3,374(1.23)
|
1,327(1.94)
|
1969 |
56,797(2.04)
|
7,510(3.46)
|
2,013(2.37)
|
3,394(1.24)
|
2,306(3.38)
|
1974 |
67,712(2.43)
|
10,770(4.97)
|
2,938(3.45)
|
3,982(1.45)
|
3,272(4.79)
|
1979 |
63,794(2.29)
|
8,347(3.85)
|
1,840(2.16)
|
4,797(1.75)
|
3,752(5.49)
|
1984 |
63,789(2.29)
|
7,601(3.51)
|
1,449(1.70)
|
5,946(2.17)
|
2,566(3.76)
|
1989 |
55,763(2.00)
|
5,565(2.57)
|
1,145(1.35)
|
6,905(2.52)
|
1,485(2.17)
|
1994 |
63,015(2.26)
|
7,167(3.31)
|
1,090(1.28)
|
5,629(2.05)
|
846(1.24)
|
1999 |
58,526(2.10)
|
6,415(2.96)
|
1,034(1.22)
|
5,530(2.02)
|
650(0.95)
|
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