1999.10.27
 
「環境と健康」 Vol.7 No.5,6 1994
BOOKS-1

浜田和幸: 知的未来学入門
新潮選書 1,000円
1994年 8月 25日発行
 

 未来学というのは今から 2、30年前によく聞いたように思う。そう言えば 1966年にコールダー編集の“20年後の世界”という本がでて興味をもって読んだのを思い出す。と言うのは未来学というのはこの様になりますと予言することであると思っていた。この本によるとそれは間違いで、未来について幾つかのシナリオを書くことである。いやもっと進んで“われわれは過去を変えることは出来ない。また、現在も瞬時にして過去に変わることを思えば、全ての思考や行動は未来を変えるためのものである。未来学の手法を活かし、可能な未来像を描き、その中から望ましい未来の創造につながる行動を取捨選択していくことが未来研究の目的である。”とこの本はいっている。

 また次のようにも言っている:“未来学や未来研究というのは、どのような事態が起こっても、あわてふためかないで冷静な対応ができるよう準備しておくための実践的学問なのであろう。そのポイントは、<未来へ向けてのたゆまぬシナリオ作り>に集約される。このことはビジネスにとっては極めて大切なことは言うまでもない。例えばシェルという会社は未来学者のシュオルツにソ連の未来についてのシナリオをつくらせた。シュオルツはソ連の現状をつぶさに調べたところ、ここでは現体制を維持することは早晩不可能になると結論づけたのである。この状況を打破するためにとるべき道は二つしかないと思われた。一つは、力で外から必要なものを奪い取ってくる方法。さもなければ、逆にソ連を開放し(体制崩壊へつながる可能性もある)、西側の協力を得る方法の二つである。これは1983年のことで、彼等は早くもソ連の崩壊を予測していたのである。シェルはこのために実際にソ連の崩壊が起こった時に逸早く手を打つことが出来、他社に対して極めて有利な立場に立つことができた。シェルから学ぶべきことは、未来研究をビジネスに使うときは、直前の問題と、より長期的な課題を、同時に見ることのできる視野が必要だということである。

 アメリカでは多くの学校が未来学をカリキュラムに取り入れている。そのエッセンスは<未来への道筋は多様であり、複数のオプションを常に念頭に置くこと><未来に個人を左右させるのではなく、個人が未来を左右する重要性>を教えることである。その続きとして最後に述べている未来を考えるについてかかせない三要素を引用しておく。

第一は、常識や既成概念の真実性を疑い、未来を創造するために、慣習を打ち破る勇気を奮い起こすこと。

第二は、自分の内面や回りの世界で起こっている現象には、全て関連性があることに気付き、何事に対しても多元的で複眼的な視野からの理解と解決を試みること。

第三は、心や意識のレーダーを常に自分を越えた世界に張り巡らしながらも、行動は足元を忘れず身近なところから起こすこと。