Editorial (環境と健康Vol.23
No. 4より)
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山岸 秀夫 |
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例年は、9 月に入ってからの残暑も「暑さ寒さも彼岸まで」の諺を信じて我慢してきた。しかし本年は将に異常気象で、秋の彼岸になっても酷暑は一向に納まる気配が無く、9 月も末になってやっと秋の気配が漂い、通勤途上の川の堤の土手にも真っ赤な彼岸花が開き始めた。仲秋の神無月に入り、この酷暑を乗り切られた病身の菅原努先生の身を案じながらも、その不死身の回復を祈念していた。その矢先に突然「巨星墜つ」の悲報を受けた。1987 年に本誌を創刊されて以来20 有余年、編集委員代表として本誌を育てられ、ご逝去直前の本号の編集にも関与して頂いただけに、本誌に激震が走ったが、先生は「生涯現役」の見事な人生を全うされた。 先生の夢は環境と健康に関する学術的記事を分かりやすく取り上げ、文理の知恵を動員して、その全体像を把握し記録に残す事であって、本誌は大学のアカデミズムと社会を繋ぐ媒体であった。編集のモットーとしては、中央の総合誌と対極的なローカル(京都の特色)と反骨(時代に迎合しない先見性)であった。その証左として、本誌 20 巻 1 号(2007 年春号)に先生が遺された提言「特集/本誌 20 周年の歩み、20 周年記念にあたって」を本文の枠内に再録することにより、本誌にかけられた先生の熱意とご功績を偲びたいと思う。 先生が最後に関わられた本号特集「宇宙、心身、いのち」は、「重量がゼロに近くなる宇宙空間での身体は質量の無い心とどう関わるのか」との疑問に発して企画された「心と身体」を考える 3 つのサイエンスカフェの記録であり、将に要素に還元できない総合的な思考を要するものである。不幸にも本年 8 月 5 日に生じたチリの鉱山事故で 70 日間も地下空間に閉じ込められた人々の「心と身体」のケアの問題も今後の話題となるであろう。本号特集以外に「随想」欄でも人の心を繋ぐ言葉の多義性が取り上げられているし、「いのちの科学」欄では自然の支配者である人間の責任に関する哲学的考察がなされ、さらに生物多様性を考える「サロン談義 7」、人間の大量消費指向に警鐘を鳴らす「サロン談義 8」、地域環境資源の管理を論ずる「JCSD」欄でそれぞれ具体的な検証がなされている。長寿社会の問題も引き続き連載講座で取り上げられているが、「生涯現役」で長寿を全うされた先生の生き方から学ぶ所は多い。 拙宅の南面の部屋の濡れ縁には、蔓性植物のグリーンカーテンをめぐらせているが、強い陽射しの下でも夕顔(ヒルガオ科)だけは手のひらを広げたような重厚な葉で木陰を作り、月の出とともに大輪の白い花が開いてやさしく昼の疲れを癒してくれる。清秋の毎夜一期一会の想いをこめて、今宵一夜限りの夕顔の花を眺めつつ、親しく慈父のようにご指導いただいた先生を偲び、その御遺志を本誌に引き継いで行きたいと思う。
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