Books (環境と健康Vol.21
No. 3より)
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阿部幸夫 著 教育は格差社会を救えるか |
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幻冬舎ルネッサンス ¥1,400 +税 |
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本誌 21 巻 2 号 Books で、「格差社会の構造」を取り上げたが、本書は、この格差社会で育つ子どもたちに焦点を当てて教育の将来を考えている。著者は、東北大学理学部物理学科卒業後、公立高等学校教諭を勤めた後、教育教材の研究開発に関わり、高校物理の教科書、問題集に共著者として加わった経験を持つ。本書は、第 1 部「近代日本の教育の振り子」、第 2 部「小さな政府と自律教育」、第 3 部「規制緩和時代の組織・個人そして教育」、第4 部「21 世紀の教育の姿と教育改革」からなる。第 1 部では、明治以降の日本の教育の歴史に触れ、第 2 部では自律的に生きる力が、急激に変動する現代社会では重要であることを述べている。このことを学校教育と家庭教育に当てはめ、(1)学校の規制項目と(2)家庭での自律意識の 2 軸を座標軸として整理している。(1)が少なく(2)の高い場合には、保護者と学校の健全な協力関係が得られるが、(2)の低い場合には、学校も家庭も生徒を放任し、生徒不在の学校経営となる。(1)が多く(2)の高い場合は、保護者の方が学校を信用しなくなり、それが生徒の態度に反映し、(2)が低いと時代の変化に対応できずに学校側の信頼を失う。第 3 部では成果主義の破錠を取り上げ、第 4 部では「生きがい」を感じられるような具体的な教科の提言をしている。その終章では、2005 年度国民生活基礎調査で平均所得以下の所帯が 60.5 %と増加し、「努力が報われる」と感じる人が減少している格差社会を示し、そこでの教育の目的は「子どもたちが社会の中で自己実現するのに必要な力」を付けさせ、「自分は社会に生かされている、自分が誰かを支えているという感性」を育てることであると結んでいるが、その具体案は示されていない。 格差社会の敗者とならないために、過重労働を厭わず、両親が深夜まで働き続ける家庭は、職住近接のコンクリートジャングルの中にあり、その子供たちは自然の「いのち」との関わりが希薄になり、孤独なゲームソフトのバーチャルな「いのち」に興じざるを得ない。本誌掲載の「いのちの科学プロジェクト」では、「いのちの科学を語るシリーズ1」として、「子どもの心と自然」(山中康裕著、東方出版、2006)を発刊した。物質的には貧しくとも、自然の中で子どもたちと「いのち」の会話を楽しむ余裕のある家庭教育こそが、格差社会を共生社会に変化させていく原動力となると考えるが、如何であろうか?
山岸秀夫(編集委員)
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