Books (環境と健康Vol.18
No. 6より)
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大串隆之編 |
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丸善株式会社 ¥1,900+税 |
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本書は京都大学生態学研究所の力を結集して、学生講義を通じて、生物多様性の危機を世間にアッピールする力作である。したがって「生態科学」の一般的な解説ではなく、各教官の研究分野のホットな話題を通じて、自然生態学の生き生きとした姿を紹介しているところに特色がある。とりわけ実験室内の生物や分子しか知らなかった私にとって、自然界での生物群衆の生活はまったく新しい世界との出会いであった。 “食う食われる”の食物連鎖では、食われるものは個体の死を意味するが、昆虫に食われる植物は葉を食べられたくらいでは死なない。死なないばかりか、自らの形質を変えて対応するしたたかさがある。1〜3章では、昆虫間だけでなく植物と昆虫の間の相互作用とその相互作用に用いられる化学情報(匂い情報)、繁殖をめぐって共生する植物と昆虫の共進化などが、生物多様性を維持する機構として紹介されている。3,4章では種の数の多い複雑な生態系ほど安定であることを、実例を挙げて数理モデルで説明している。5章では2000〜3000万年の歴史を持つバイカル湖とアフリカ古代湖にすむ同一科の魚の視物質の分化を棲息環境と関連させて、分子進化と種分化の関連を論じている。6,7章は水中のミクロ生態学への招待で、「生きてはいるが培養できないバクテリア」の存在を示して、そのウィルスも含めてバクテリア群集の意外な多様性を明らかにし、その多様化に果たす細菌間の遺伝子伝播の可能性を示している。最後の第8章では、里山に代表される擬似自然でも、本来の自然の多様な生物群集維持に果たしてきた役割の重要性が強調されている。 全体を通じて、いずれも人為的な環境破壊の中でたくましく生きる生物への暖かい思いにあふれた小品である。 山岸秀夫(編集委員)
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