Books (環境と健康Vol.18
No. 6より)
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井村裕夫著 |
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日本経済新聞社 ¥2500E |
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日本の科学技術の司令塔として21世紀の始まった2001年1月6日に総合科学技術会議が発足しましたが,その前身の科学技術会議のときからその議員をつとめてこられた著者が、極めて卒直にその活躍の状況を語りかける興味ある一冊です。著者も序章で次のように書いておられます。 本書はわが国の科学技術政策と教育について、私がここ十年余りの間考えてきたこと、実行してきたことをまとめたものである。 勿論考えられたことは大切ではありますが、本としては何より著者の実行された日本の司令塔の実際を知る資料として極めて貴重なものではないでしょうか。私達も日々新聞その他を通じて、政府の科学技術政策の動きや、教育改革のことを見聞きしていますが、これはその動きの中心にあった人物の意見もまじえた記録として興味深く読みました。 最初に近代国家における科学技術の意義とその位置づけについて米国の例から始まってわが国のそれを論じられている始めの3章の内容は大変教えられるところが大きいと思います。この本の書き振りを示す見本として最初に読者が取り上げそうな話題について引用します。以下p.29−30の引用です。前半に実際の経過を書き、後半に著者の意見が述べられています。 科学技術か科学・技術かについては1996年、第一期の科学技術基本計画を策定する委員会でも、最初の会合でこのことが問題となった。一部の委員は是非「科学・技術」を用いるべきであると主張した。しかし、すでに科学技術基本法が成立しており、それに基づいて科学技術基本計画を策定することが決められていたが、いずれも「科学技術」という一語が用いられている。したがって、「科学技術」か「科学・技術」かといった議論は十分深められないまま、結局は「科学技術」という言葉が用いられることとなった。 たしかに政府やマスコミでは、一般に「科学技術」という表記法がよく用いられている。その例は科学技術庁に始まって、科学技術基本法、科学技術基本計画、総合科学技術会議、科学技術大学院大学など、数は多い。しかし、科学技術という言葉は学者の間では甚だ評判が悪い。それは科学と技術は本質的に異なるものであり、英語でも「Science and Technology」と呼ばれているからである。また、科学技術という言葉が嫌われるのは、そこに実用を、したがって技術を重んじるわが国の一般的な価値観が含意されているように感じられるからではなかろうか。(以下略) 評者が問題にしている「安心・安全」についても同様の紹介がありますが、むしろ全体を示すためにそれは省略して、目次の章立てを以下にご紹介することにします。 序 章 知識社会と国家戦略 最後に一言だけ意見を言わせて頂くとすれば、総合は科学技術についてはできましたが、世の中は、あるいは社会は人で動いているので、また科学技術の独走に歯止めを掛ける意味でも、人文・社会科学の考え方への配慮がもう少しあれば、と言うのが私の希望です。 菅原 努(編集委員)
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