Books (環境と健康Vol.18
No. 3より)
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マーク・ブキャナン著 阪本 芳久訳
複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 |
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草思社 ¥2,200E
2005 年 3 月 3 日第一刷発行 ISBN4-7942-1385-9 C0040 |
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世間は案外狭いものだという人びとがときに経験することの説明から始まり、インターネットのつながりの解析から、生態系や脳細胞の働きのしくみ、経済で何故金持ちがますます金持ちになり貧富の差が広がるのか、これらの疑問を数学者がコンピューターでモデルを走らせることで解き明かしていこうとしているのです。今世界に 60 億人の人がいるとして、それらの人が互いに知り合う事などとても考えられません。そこで著者は簡単な計算を試みます。私が 50 人の知り合いを持っているとします。これは極めて妥当な仮定でしょう。その私の知人がそれぞれまた 50 人の知人を持っているとします。その各人がまた 50 人の知人をと続けていくと、段階を進む毎に 50 倍になるわけですから、4 回で 625 万人に、5 回、6 回ではそれぞれ 3 億 1,250 万人、156 億 2,500 万人まで膨れ上がります。これならば世界中の人が数人の友人を頼れば皆知り合いということになります。でもこれは少しおかしいですね。それは大抵の人が互いに共通の友人を持っているからこのように倍倍とは増えません。すなわち人びとは小さな塊を作る傾向があります。では矢張り世界は広いと諦めなければならないのでしょうか。ところがこの小さな塊は思いがけない細い糸で繋がっていて、それを帳して近づく事が出来るのです。それを実際に示しているのがインターネットの繋がりです。はじめ蜘蛛の巣のように広く一様に繋げることで世界中を結ぼうとしたのです。ところが実際に出来上がった網の目には所々にたくさんの糸が集まる集中点が出来ているのです。むしろあちこちに大きな塊があり、それを細い糸が結んでいると言ったほうがよいでしょうか。これで日本からアメリカの端まで数回の連絡で結び付く事ができるのです。世界は随分狭いものなのです。 同じ事は航空の世界ネットを思い浮かべると分り易いと思います。ところどころにハブ空港があり、其処には沢山の航空路が集中していますが、その他の空港には数本の航路しか来ていません。それでも日本から数回乗り換えるだけで世界中どこへでも行けるではありませんか。この集中度とそれに相当する点の数とを両対数目盛りでプロットすると蔓白い事に直線になるのです。これを「べき乗の法則」と言います(y = axn と書けます)。一箱に生物では一定の正常値があって個体によってばらつきがあるために拡がった分布をすると考えます。これは帳常正規分布という形です。したがって「べき乗分布」は普帳生物では見られなかった形です。このような形が生物系のネットワークの中にあるとすれば、その変化を調べるのには今までと違った分析方法を採用する必要があることになります。(例えば上の式で a に注目するのか n にするのかなど) 勿論この本にはそこまでは書かれていません。しかし、この分布が複雑系のネットワークの一つの特徴であるとしています。例えばこの分布は集中する点ほどその数は少ないのですから、それは少数の金持ちが国のお金の大部分を持っているということを説明するのに使えます。それは金持ちが貪欲だからではなく、自然にそうなるのだ、従ってそれを防ごうとすれば何か人為的な方策をとる必要があるということになります。この法則は生態系にも使えるはずです。この法則で金持ちのことだけでなく細いきずな、すなわち僅かの二点を結ぶ細い糸もまた必要なことも意味しています。これらが両方あって初めて生態系も安定することは出来ます。今そのための生態系のネットワークの調査が行なわれているそうです。それで初めてどのような保護政策が取られるべきかが明らかになるでしょう。 ネットワークの特性は、人の社会から細胞までいたるところに広がってみられそうです。これが複雑系としての生物現象の理解にどれだけ役立つかはこれからの課題だと思われます。この本を読んでそんな大きな夢を感じたので、是非広く読んで考えて頂きたく、この欄にご紹介する事にしました。 序章:複雑な世界を読み解く新しい方法 (Tom)
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