Editorial (環境と健康Vol.17
No. 6より)
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何故今さきがけ技術の振興が必要か
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菅原 努 |
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趣旨: ところが耳が遠くなり設立総会の議長も西原英晃京大名誉教授にお願いしなければならないようなこの 83 歳にもなる一介の老科学者が何故今さらこんなことを言い出したか、其のわけを話しておきたいと思います。我が国は最近科学技術立国ということで、多額の予算を投じて努力をしています。私などはその動きを静かに見守っておればよいはずです。ところが私の目の前に現れる現実は、かねて見てきた我が国の後追い姿勢が少しも変わらないものでした。評価も自分では出来ずに、欧米で評価されて初めて我が国で評価される、逆にいかに優れたものでも欧米で評価されないものは、相手にされないという現実は全く変わっていません。 学術月報という文部科学省の学術振興会の雑誌が11月に「特集:がん研究ム疫学・予防、診断・治療研究と将来展望ム」を出しました。それを読んで私はこれが将来展望ではどうなることかと驚きました。其の中心はトランスレーショナル・リサーチと分子標的治療薬です。同じころにアメリカから来た季刊誌“Perspectives in Biology and Medicine”の特集は Clinical Research: Twenty-five years of increasing concern for the linchpin of medical research というもので、一歩進んでトランスレーショナル・リサーチと分子標的薬の問題点を指摘し、改めて臨床研究の重視を訴えるものでした。私はこの日米の余りの違いに驚きました。 私が関心を持ち続けているがん治療については、最近公私という違った立場から患者向けの最新の治療を解説する本が出版されました。一つは垣添忠生がんセンター総長の「患者さんと家族のための がんの最新医療(岩波書店)」で、もう一つは「患者よ、がんと闘うな」という本で有名な慶応大学の近藤 誠の「がん治療総決算(文芸春秋社)」です。何れにも私が関係しているがん温熱療法がまともに書かれていないので、注意して読んでみました。両者で立場の違いはありますが、根本はがん治療の見本は欧米ことにアメリカにあるということのようです。どちらもかなり広くカバーしていますが、アメリカで承認されていないがん温熱療法はまったく批判の対象にもなっていません。アメリカでがん温熱療法が認められないのは、アメリカでは加温装置の開発に失敗をしたので、温熱療法そのものを徹底的にしらべてその効旺を否定したというようなものではないのです。 考えてみれば、このようなことはいろんな分野にあるはずです。私の知るかぎりでも、機能性食品という考えは我が国で生まれたのに、なかなか広く採用されず、最近ではヨーロッパで Functional Foods として注目されています。このような時に、また我が国でさきがけ技術が生まれ、私の目のとどくところに現れたのです。それは東大阪の野村政明さんの USST です。これは一箱には過熱水蒸気といわれていて、最近注目を集めるようになってきているものです。そのなかで USST と私がなずけたこの野村さんの技術を私は特に高く評価し、其の将来に大きな期待を掛けています。普帳過熱水蒸気と言っても 200 ℃、300 ℃までのものが多いのですが、この USST によれば大気圧で 500 ℃、600 ℃のものが簡単に作れます。勿論私は企業人ではないので、その経済的な利益のめどはつきませんが、その有用性が正当に評価されれば世界的に広い分野で活用されうるものと推測しています。しかし、またこれが全く新しい技術であるだけに、注意深く取り扱う必要があると思います。そこで、科学者としてこれを正しく、しかし十分に広く発展させることを出発点として、新しい NPO を立ち上げることを計画したのです。 この USST を中心とし、さらに上記のようながん温熱療法や機能性食品などの諸分野でのこの NPO の活動が成功し、社会の評価を得られれば、これからわが国発のさきがけ技術が正しく評価されるようになり、真の科学技術立国に大きく寄与することが出来るだろうというのが、私の狙いです。この NPO の発足がその糸口を切ることになれば、もって瞑すべきであると思っています。 この NPO 法人の具体的な内容、活動については、次号から順次報告していきたいと思っています。
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