Books (環境と健康Vol.17
No. 5より)
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河合幹雄 著
安全神話崩壊のパラドックス:治安の法社会学 |
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岩波書店 ¥3,500+税
2004年8月26日発行 ISBN4-00-022023-3 C0036 |
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これに対して、そうではない、新聞が殺人ことに少年のそれなどを興味本位で大きく報道するから、そのような凶悪犯罪が増えているように思われるので、実際の統計では決して増えていないのだ、とは聞いていました。本書では先ずこの点を沢山の統計資料をもとに検証します。犯罪と言ってもスピード違反から強盗殺人までいろんなものがあるので、安全に関係する強盗殺人などに重点をおき、また犯罪の実数と人口当たりとの比較などを考慮し、さらに警察の統計に官庁としての自己啓示の偏りの可能性を考えて死刑・無期懲役など刑罰を受けた人の数や人口割合をとるなど、種々の検討の結果 1950 年の戦後から凶悪犯罪は減少こそすれ決して増加はしていないことを証明しています。ただそれを見て気になるのは僅かとはいえ 2000 年から一部増加しているように見えるものがあることです。勿論これは全体の議論には関係のない程度のものですが。 このように、全国規模では犯罪はさして増加はしていない。それでも住民について安全神話が崩壊しているのでしょうか。じつはそのような統計的な研究はこの本でも示されていません。しかし新聞報道などからそれが示されているとしています。その証拠として、1995 年の阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件における被害者に関連する記事の急増、少年犯罪とそれに関連する少年法改正関連の記事を挙げています。この点私には証拠不十分のように思えますが、何となく街が今までのように安全ではなくなったと言う点は同感できます。 さてこれからが大事な点なのですが、また著者の主張の中心なので、詳しくは是非本書によって頂きたいのですが、一口に言えば次のようになります。犯罪は増えていないが、今まで安全な処と、そうでない処とを何となく区別していた境がなくなったことが、言い換えれば犯罪の有る処、時間、世間が区別なく広がったところに問題があるのだ、と言うことです。アメリカなどでは、警備員に護られた住宅地などがありますが、我が国ではそのように形の上で境を置かなくても、繁華街とか深夜とか危険な場所、時間が比較的にはっきりとしていたのではないでしょうか。それが自宅付近でひったくりに会うとか、離れた住宅で昼間に殺人が行なわれるとか、危険が一様に広がってしまったのだ、と言うのです。犯罪をしやすい人はある意味では差別され隔離されていたと言えるかもしれません。また隣近所はみな顔見知りで、よそ者がうろうろと出来ない雰囲気があったのでしょう。これに対して防犯カメラなど監視を強めることが本当に社会にとって良い事か、十分に考える必要があると指摘しています。また交通の便は盗んだ物を遠くへ運んで処分することを可能にしたのが、新しい型の犯罪を生んでいる面もあるでしょう。 このような社会の変化を今後どのように考え、向けていくのがよいのか、犯罪者の更正からみて如何するのがよいか、など多くの問題と意見を提示しています。安全神話の崩壊はパラドックスであるとともに、またジレンマでもあるようです。 (Tom)
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