2004.7.7
 
Books (環境と健康Vol.17 No. 3より)
動物と人間の世界認識
イリュージョンなしに世界は見えない

日高敏隆 著
筑摩書房 ¥1,600E
2003年12月10日初版第一刷発行 2004年3月10日初版第3刷発行
ISBN4-480-86068-1 C0045
 

 

 かねがね日高さんの「昆虫には紫外線が見えるものがある」という話は聞いていたが、こうしてまとめてその意義を、生物はそれぞれに世界を自分のイリュージョンで見ているので、人間も例外ではない、と説明されて成る程と感心した。大変読みやすい分かりやすい本なので、ここで内容について解説をしないで、自分で読まれることをお勧めする。最後の方に動物だけではなく、人間についても自分の見えている世界のイリュージョンを持っているということが書かれている。しかし、人間だけはその回りを見る新しい道具を次々と見つけてイリュージョンの世界を拡げているように思える。電波も放射線もそれまで見えなかったものを見る方法を見つけてその世界に加えてきた。最近では私が50年以上前に物理学を学んだときから仮定の粒子であったニュートリノまで、見つけるようになった。

 さて、ここからが私見であるが、人間は次々といろんなものを周囲に見ることができるようになったので、少々うぬぼれすぎてはいないだろうか。人体の内部もCTやMRIなどで切らなくても見えるようになった。だからあるものは全部見ている、見ることが出来る、それが客観的な世界だ、もう見えないものは何もない、と思い込んでいないだろうか。日高さんは見えないもののイリュージョンとして輪廻の思想を書いておられる。私に言わせればそんな難しいことではなく、医学が見えるものだけにこだわって、見えない心を忘れているのは科学技術万能のこの世界に住む人間のうぬぼれのイリュージョンではなかろうか。

 こんなことを考えさせられる、大変印象的なしかも説得力のある本としてお勧めする。

(Tom)