Editorial (環境と健康Vol.17
No. 1より)
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第17巻を迎えて
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菅原 努
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一年前の第16巻を始めるにあたって第1号のEditorialでいろんなことをお約束しました。その一部は実現できましたが、一番重要だと考えていた J-STAGE への掲載による電子化だけは経費の都合で実現できませんでした。予想以上に経費がかかることが分かったので諦めざるを得ませんでした。約束違反を深くお詫びします。電子媒体に載せるということは、出来るだけ広く読んでいただこうという狙いですが、そのための単行本の出版については、検討を重ねており何とか今年のうちには第一冊目が日の目をみるようにと努力しています。どうも最初から言い訳とお詫びが出てしまいましたが、この号のトピックスにもありますように、健康財団グループとしては新しい方向を模索しながら、進んでいますので、ご期待ください。 17巻になるということは、この間に17年の年月が過ぎたということで、それを編集している私もそれだけ年をとりました。この雑誌が皆さんのお手元に届く頃には83歳になっています。自分でも年のことは余り気にしていなかったのですが、一年前の昨年の2月に下行大動脈解離で緊急入院をして以来、急に歳を感じるようになりました。個々の記事の内容については問題はありませんが、編集者としては体力的に力を抜かざるを得なくなった蔓もあり、お詫びするとともにお許しを得たいとお願いする次第です。 さて、この号から始まる新しいトピックス:特集ですが、これは前に私が「消夏茶話:自然科学者が聞く文系の話」として本誌(Vol.16 No.4)に紹介した放談会の全記録です。かなりの大部になるのでやむを得ず3回にわけて掲載することにしました。今までの健康指標プロジェクトとは違って講演と質問、討論がそのまま実況で読んでいただけるのではないかと思います。この放談会がきっかけになって、今年は後半に文理合同の話題をめぐってのいろんな会合をひらき、生命科学の新しい道を開いて行こうとしているのです。勿論それには私は年を取りすぎていますので、新しく若い世代にリーダーをお願いするつもりです。 このようなことを考えていたところ、思いがけず生命科学者と経済学者とが、同じような問題意識をもって共同で書いた本が出版されました。(金子 勝・児侠竜彦著「逆システム学」岩波新書875)生命も経済も調節機構ことにフィードバックがうまく働くことが大切で、DNAや個々の経済因子をいじっても蔵目だというものです。彼らはそれを逆システム学と名付けています。調節機構が大切だと言う点については私も同感ですが、それを生命も経済もと強調するのは良いとして、私には、折角異分野で協力しながらこれでは何か物足りない気持ちがするのです。むしろ異分野では互いに足らないところを補い合うこと、全く違った発想を得ること、殊に自然科学の定裏的研究と人文社会科学の質的研究とをどうして結び付けるかといったことなど、未知の分野に踏み込むことこそ、目指すところではないかと思います。 でもこの本から幾つかのヒントが得られました。がん細胞について、今までがん遺伝子とがん抑制遺伝子をそれぞれ自動車のアクセルとブレーキに例え、このバランスが崩れると自動車は暴走してがんになる、と説明されて来ました。そうしてこの暴走を如何にして止めるかが一つの対がん戦略になってきています。しかし昔からあるもう一つの考え方は、がんは分化の異常だと言うものです。自動車は好きなところを走ればよいのですが、多細胞生物の細胞は、決められた軌道の上を走り、決められた分岐をし、決められたところで終点にならなければならない列車のようなものです。横へ曲がるべきところで曲がらず、終点になっても止まらないのががん細胞です。では一体この線路を引き、終点を決めているのは何なのか。これは正に身体全体のシステムであり、それの調節系ではないでしょうか。 この調節系の異常から逆にその調節系の機構を見ていこうということで、この著者らはこれを逆シルテム学となづけたのです。これは私がかねてから言っている逆問題の一つです。彼らはこれをDNAチップから発想しました。多くの遺伝子が調節系とし複雑に発現している状態を見出したのです。これをどの唖柔軟な頭で受け止めるかがこれからの勝負でしょう。新しい時代が目の前に迫ってくるのを感じます。私達はこれを文理合同のソフトな頭で受け止めていこうではありませんか。
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