Topics (環境と健康Vol.16
No. 2より)
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毎日新聞 企画特集
がん治療最前線 平成15年3月16日(日)より |
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がん治療最前線
温熱療法はなぜ効くか 財団法人体質研究会理事長・京都大学名誉教授 がんの治療法といえば、外科手術、放射線療法、化学療法や免疫療法などがよく知られています。それに比べてハイパーサーミアは、まだ一般に普及しているとはいえません。しかし、決定的な治療法のないがんに対処する一つの有効な選択肢であることは、多くのデータが示しています。 温熱療法の原理を理解するために、例えばお風呂に入った場合を考えてみましょう。43度くらいになると、もう皮膚が真っ赤になります。皮膚には網の目のように毛細血管が走っています。熱が加われば血管は拡張することによって血流を増やし、熱を運び去ってそれ以上皮膚の温度が上がらないようになっています。 一方、がん腫瘍のほうは温度が上がっても、血管を拡張して血流を増やすことができません。しかも酸性になっているから熱に弱いという性質があります。がん細胞は43度くらいの熱を加えると死んでいきます。私たちが43度のお風呂に入ってもやけどをしないのは、細胞同士がちゃんと助け合っているからです。ところが、がん細胞は全然助け合いません。これはがん細胞が独立して体中あちこちに飛んでいくためには好都合で、だから転移が起こって怖いわけです。 このように上手に熱を加えて処理してやると、がん細胞だけが死んでいきます。これは正常細胞もやられてしまう従来のがん治療から考えると理想的なことです。 しかし難点もあり、体の中にある腫瘍を加熱することが難しかったのです。これは高周波の使い方の技術的な問題です。同じ高周波でも下手に使うと体の中はぬくもらないが、うまく使うと深くまでぬくもります。電極を上手に加減すると、いろんな部分をぬくめることが可能です。臨床の経験を踏まえた結果、いま世界で一番普及している装置ができました。
藍野病院院長・京都府立医科大学名誉教授 がんは芽生えてから大きくなるまでに時間がかかります。がんが発生して10年、20年たってパチンコ玉くらいのサイズになると、CTなどの検査で見つかります。一カ月ごとに分裂して1個が2個、2個が4個になるがんの場合、ほぼ半年でゴルフボールの大きさに、1年でテニスボールくらいになります。がんによって進行速度が違いますが、まず1センチ大で見つかればラッキーで、早期の手術が可能です。ただ、検査方法によって精度が違いますから、見落とされることもあるので、毎年とまではいかなくても2年に1回はきちんと調べておくとよいでしょう。何しろがんというのは、したたかな相手なのですから。 手術・放射線療法・化学療法が、がん治療の3本柱です。でも、その効果が薄れて、主治医の治療に対する意欲が衰えたとき、患者さんはそれを敏感に察知して、わらにもすがる思いで免疫療法とか各種の代替医療を求めています。「さまよえるがん患者さん」という言葉がぴったりで、現にほとんどの患者さんが主治医には内証で、いろいろな治療を受けておられます。 私はがんの治療というのはあくまでも闘いであり、決してあきらめてはいけないと思います。副作用のない治療で少しでも良い生活を送っていただきたい。その役割を果たすのがハイパーサーミアなのです。 問題は、ハイパーサーミアでがんが小さくならないとき、医師も患者も効果がないと判断し、この治療法に見切りをつけることです。がんが大きくならずにおとなしくしているのなら、これは効果があったと考えていただきたいのです。そうでなければ、またさまよわれることになりますよ。放射線や抗がん剤に代替医療も併用されて、がんと闘いながら患者さんに優しい医療であるハイパーサーミアも受けられる、というのが私の願いです。
高齢者に負担少なく有効 上田公介 名古屋市立東市民病院泌尿器科部長 多くの高齢の患者さんとお話をしていますと、年を取ってがんになっても仕方がないけれど、できれば苦しみたくない、苦痛を伴うような治療法は遠慮したいと言われます。副作用の強い抗がん剤や負担のかかる手術もできれば避けたい。そういった意味からも、温熱療法は患者さんに負担が少ない治療法です。 前立腺がんは一人一人内容が違います。それぞれの患者さんの病態に応じて温熱療法が可能で、しかも何度でも治療できるのです。放射線治療をした後でも、手術をした後でも行えます。抗がん剤や免疫療法と併用して治療もできます。手術ができない高齢者の前立腺がんで温熱療法によってがん細胞が消失した例や、直腸のほうまで進んでしまった膀胱がんが、抗がん剤と温熱療法の併用で元通り排尿可能になった例など、多くのケースが有効性を示しています。上手にやると非常に気分がよくて、またやってほしいと何回でも来られます。 放射線との併用で好結果 寺嶋廣美 九州大教授 私はがんの放射線治療と温熱療法を主に行っています。初期のがんでは放射線療法で手術と同じように治せるものがかなりあります。例えば、喉頭がんの場合には声を温存して治せますし、初期の乳がんでは腫瘤のところだけを切り取ったあと乳房を照射しますと、乳房の形を残したまま治せます。 しかし、がんが大きくなりますと放射線の量を増加しても治すのが難しくなります。これを温熱療法と併用すれば大きな効果が得られます。例えば再発乳がんでは約1.5倍の効果があります。 手術不能の進行がんでは、胸壁に浸潤したパンコースト型肺がん、縦隔に転移したIII A期の肺がんで、放射線治療と温熱療法を行った結果、がん細胞が完全に消えた例もあります。子宮頸がんの場合、I期、II期では放射線治療でもよく治るのですが、膀胱に浸潤したIV a期で手術もできない状態から、放射線治療と温熱療法を受けて回復し、5年以上たった今も元気にしておられる方もいます。放射線療法は機能とか形態を保存したまま治すのに優れ、さらに温熱療法を加えますと局所制御力が上がるという特徴があります。 局所温熱で免疫増強効果も バレンチナ・オスタペンコ がんのきっかけとなる因子として、ウイルスの侵入、がん遺伝子の存在、発がん物質、紫外線、老化、ストレスなどが考えられます。しかし、これらの因子を持っていてもがんになるとは限りません。なぜかというと免疫などの防御システムが働いているからです。私たちが病気になった時に出る熱は、体の免疫力を高める働きがあります。同じく患部を局所的41〜43度に温める局所温熱療法も、免疫力を高める力を持っています。 私たちはこの治療法が免疫機能を高めるかどうかを見るために、多くの臨床データを取り調査を行ってきました。例えば、腎臓がんの局所温熱療法により腎臓に存在した大きな原発巣の縮小を確認したと同時に直接温熱療法をしなかった肺転移病巣も一回り小さくなったのは、温熱治療による免疫効果だと考えられます。温熱療法には、局所的に働く直接的な抗がん作用だけでなく、全身の免疫増強効果があり、まさに宮本武蔵の二刀流のように非常に有効な治療法だと思います。 ・・・・・・・質疑応答・・・・・・・ 座長の湯川 進・日本内科学会理事 ――ハイパーサーミアは肝臓がんに有効ですか。 ――肺は温まりにくいので難しいと聞きました。 ――前立腺のがんが他に転移しています。 ――免疫療法はどの程度期待できますか。 ――わらにもすがる思いでアガリクスなどの健康食品を購入し、サメ軟骨療法を試みています。 ・・・・・・・治療の体験報告・・・・・・・
痛み止め不要に :上野左貴さん(京都市)
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