最近の世界及び我が国の状況を見ると癌治療の中でハイパーサーミアが正当に評価されているとは思えない。殊に日本のがん啓蒙書ではハイパーサーミアはしばしば無視されている。
がんに関する本は本屋にあふれているが余り信用できる様な物はない。ここでは一流の科学者が啓蒙のために文庫本でだした物を集めた。発行順に並べハイパーサーミアについての記載の様子を調べた。
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小林 博「がんの治療」
岩波新書1992年7月20日 |
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放射線療法のところで温熱療法との併用として一頁余にわたって正確な記載がある。 |
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加藤治文、福島 茂「肺がん時代」
講談社ブルーバックス1995年2月20日
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温熱療法、放射線療法、免疫療法など項目をあげて正確な記載がなされている。 |
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高野利也「がん最前線」
集英社文庫1997年1月25日 |
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放射線療法についての記載はあるが温熱療法については全くふれられていない。放射線についても副作用が強調され、いささか偏向の感がある。
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杉村 隆、垣添忠生、長尾美奈子「がんと人間」
岩波新書1997年5月20日
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あらゆる角度から迫るがんの本態ということであるが、集学療法と言ってもその中には温熱療法はない。またがんはDNAの病気であるにこだわってepigenetic(遺伝子発現以降)のことを軽視している。温熱感受性はこれに関係するところが大きいのにこれを無視している。 |
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竹中文良「がんの常識」
講談社現代新書1997年5月20日 |
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外科医らしく手術と化学療法についてが主で放射線についても殆どふれられていない。ましてや温熱療法などは一言もない。そのくせ丸山ワクチンについては個人的なことと断りながら詳しく書かれている。
この他少しカテゴリーが違うがベストセラーであるというので近藤 誠のものを二冊調べてみた。先ず有名な |
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近藤 誠「患者よ、がんと闘うな」
文芸春秋社1996年3月30日 |
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これは抗がん剤と手術多用を責め、またがん検診を批判している。そこで放射線治療は正しく使えば手術より利点が多いと主張するがその成績を向上させる筈の温熱療法については一言もふれていない。それでもう一冊の著書を調べた。 |
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近藤 誠「ぼくがうけたいがん治療」
さいろ社1995年3月31日 |
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この方が一年前に書かれているのでこれが彼の本音であろう。「免疫療法、温熱療法などその他の療法」という項があり次の様に書かれている。“手術や放射線治療で治らないといわれた場合に、免疫療法や温熱療法や民間療法などに目がいく患者さんや家族が多いようです。あるいは手術や放射線治療で治ることがのぞめる場合にも、もう少し治る率が上がらないかと、それらの治療に手をだす人々もおおぜいいます。そういった気持ちはわからないではありませんが、どれもこれも、治る率の向上や生存期間の延長が証明されていない点で共通しています。そこでそれぞれについて理論的な難点や、実際に適用するうえの困難さなどを指摘することが可能です。(中略)温熱療法については、過去、非常に期待されましたが、米国ではすでに政府からの研究費が打ち切られ、研究熱はさめています。(以下漢方や民間療法に及ぶ)”これを見ると著者の無知と偏見が良くわかる。科学的な温熱療法を民間療法と一緒にしている。
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以上7冊の本を調べると始めには良く理解されていた温熱療法が段々と無視されるようになって来たことが分かる。本稿は1997年11月に書いたものであるが、その後も状況は一向に改善されていない。例えば最近出された次の本でも帯には「食生活から遺伝子治療まで」と書かれているのに、進行性大腸直腸がんに有効なハイパーサ−アミア併用放射線療法のことが一言も書かれていない。
・武藤徹一郎 「大腸がん」 ちくま新書 2000年4月20日