2004.5.21
 

 平成16年健康指標プロジェクト講演会要旨

第50回例会記念講演会
「知のフロンティア−健康といのちの科学をめざして
(7月3日(土) 13:00〜17:00、「芝蘭会館」稲盛ホール)

地震活動期の西日本

尾池和夫
(京都大学総長)
 


略 歴
1963年  京都大学理学部地球物理学科卒業
1963年  京都大学防災研究所助手
1973年  京都大学防災研究所助教授
1988年  京都大学理学部教授
1995年  改組により京都大学大学院理学研究科教授
1997年  京都大学大学院理学研究科長、理学部長
2001年  京都大学副学長を兼任
2003年  京都大学総長
現在に至る.
      地震予知連絡会委員、京都市都市計画審議会委員
      専門領域:固体地球物理学、地震学
      趣味:俳句(氷室俳句会京都支部長)


講演抄録

 中央構造線を含みそれよりも北側の西南日本内帯では、ほとんどの大規模な内陸地震は大都市に起こると私は思っている。しかも、内陸大地震は、歴史の中で大震災を経験していない都市直下に起こることが多い。なぜ、西日本の大地震は大都市に起こるのか。その仕組みを述べたい。

 南海トラフに沿うプレート境界では、90年から150年に一度というような頻度で同じ所が活動する巨大地震の繰り返しがある。一方、陸地では活断層帯が活動して大地震が起こる。

 北陸および近畿の中北部など、中央構造線より北側で、糸魚川−静岡構造線よりも西の地域は、地質構造からは西南日本内帯と呼ばれ、ここにはとくに活断層が密集して分布している。活断層の運動のうちの上下変動が、この地域に大きな平野や盆地を発達させた。その平野や盆地に都が置かれ大都市が発達してきた。したがってこの地域では、活断層帯が動いて大地震を大都市の直下に起こすということになる。

 さらに、マグニチュード6クラスの地震は、日本列島のような変動帯では、プレート境界や活断層とは関係なく、どこにでも起こる自然現象であり、この程度の地震でも局所的には被害を出すことがある。したがって、日本のどこにいても、地震に備えることは生活の基本の一つであるといえる。

 西南日本内帯の活断層帯の地震活動は、南海トラフの巨大地震の発生時期近くに活発化するということが指摘されている。南海トラフの巨大地震の50年前から10年後までの内帯の大地震の活動度は、同じ地域のその他の期間に比べて約4倍になる。さまざまなデータから次の南海トラフの巨大地震の発生時期を予測すると、21世紀前半の2040年頃となる。

 南海トラフの巨大地震は、活動期のたびに必らず発生する。一方、内陸の活断層帯では、過去数回の活動期に大規模地震が発生しなかった活断層帯の中に、次の活動期の大規模地震が起こる可能性の大きいものが含まれているということになる。西南日本内帯には大地震の候補地が多い。数百年以上動いていない活断層に一つ大規模な地震が起こると、20世紀前半を中心とする前回の活動期中に山陰から北陸地域に見られたように、隣接する活断層帯で連鎖反応的に次々と地震が起こる場合もある。

 普通、活断層帯が一度大地震を起こすと、その断層帯に周辺で余震が数十年は続く。だから断層帯に沿って中小地震が分布している場合が多い。しかし、余震とはいえない中小規模の地震が集中している活断層帯もあり、西南日本内帯では、山崎断層帯、花折断層帯南部、琵琶湖西岸断層帯、三峠断層帯、中央構造線活断層帯の和歌山県側、養老断層帯などがあげられる。どの断層帯に今回の活動期の地震が起こるか、またいつ起こるかはわからないが、活動履歴の調査から安全が確認されるまでは、いつ地震が起こってもいいように用意しておくことが防災対策の基本であろう。

 

主な著書(地震の解説書)
日本地震列島、朝日文庫、1992
図解雑学・地震、ナツメ社、2001

 

 
 

 

平成16年健康指標プロジェクト講演会開催計画に戻る
健康指標プロジェクトINDEXに戻る
トップページへ