2004.2.14
 

 平成16年健康指標プロジェクト講演会要旨

第47回例会
(2月21日(土) 14:00〜17:00、京大会館102号室)

新世界ザル
−人類を生み出さなかった霊長類−

西邨顕達
(同志社大学理工学研究所)
 


 霊長類は大きく原猿と真猿に分類される.原猿(原始的な霊長類)は新生代の前半(3000〜6000万年前)に栄えた霊長類の直系の子孫である.真猿に比べて,手の器用さ,優れた視覚,発達した脳という霊長類の特徴はまだ十分に具わっていない.いっぽう真猿はある種の原猿から進化したものから始新世末(4000万年前)広鼻類と狭鼻類に分かれた.狭鼻類はその後さらにオナガザル上科とヒト上科(類人猿とヒト)に分かれていった.広鼻類(平たい鼻サルたち)の通称が新世界ザルで今日の話の主人公である.名前の由来は,霊長類の多くがアフリカとユーラシアで進化したのに対し,広鼻類のみが新世界(アメリカ)の南米で進化したことである.新世界ザルの祖先が当時孤立した島大陸であった南米に渡ったのは狭鼻類と分かれて間もなくであったと言われている.

 新世界ザルは形態,生態,社会においてきわめて多様であり,その多様性は旧世界ザル(オナガザル上科)の比ではない.新世界ザルの中には夜行性のものや,非常に虫食性の高いものがいる.このような生態は旧世界では原猿においてのみ見られる.それだけでなく,新世界ザルには類人猿と共通する特徴を持ったものもいる.新世界ザルの多様性は彼ら独自のものだけでなく,このように旧世界霊長類の様々なグループとの進化的収斂を含む.

 新世界ザルは多くの系統に分かれるが,ここではクモザル亜科,とくにその中のクモザル族の生態と社会を紹介したい.第一の理由はそれが新世界ザルの中で私が最もよく知っているグループであること.私は1973年以来30年間野外調査をしてきたがそのほとんどはウーリーモンキー,ムリキ,およびクモザルというクモザル族のサルたちであった.第二の理由は,彼らは類人猿と共通する特徴を多く持つので人類の進化を論議するのにいい材料であること.クモザル族が類人猿的特徴を持つことは以前から形態学的研究で指摘されていたが,野外研究によって生態・社会面でもそうであることが分かってきた.例えば,クモザル族の3種類のサルたちはいずれも果実食性が強く,「父系」の社会(メスだけが移籍しオスは生まれた群れを離れない社会)で暮らすことで共通しているが,これは旧世界ではチンパンジーとボノボでのみ見られる特徴である.

 

 

 
 

 

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