2004.1.5
 

 平成16年健康指標プロジェクト講演会要旨

第46回例会
(1月17日(土) 14:00〜17:00、京大会館102号室)

食の効能評価の手法とその問題点

五十嵐 脩
(茨城キリスト教大学生活科学部)
 


 食品やその成分について、健康に対する効能、効果を表示することは、日本においては、次に示す例外を除けば不可能である。その例外としてはある特定の食品成分が食品から分離され、医薬品として許可されたもの(例:米に含まれるγ-オリザノールなど)や特定保健用食品(個別許可型、それぞれの食品について申請に基づいて健康についての効能効果を判定し、厚生労働省が許可する)と栄養機能食品(規格基準型、厚生労働省が定めた規格基準に範囲内にあるもののみ、一定の健康表示が許可されている)などがある。栄養機能食品としてこれまでに許可されたものはビタミンKを除くビタミン12種類、カルシウム、鉄の2つのミネラル(最近の会議でマグネシウム、銅、亜鉛について認可される方向で審議が進んでいる)だけで、これらについては定められた健康表示ができるし、含量についてもそれぞれの成分について最大量は医薬部外品の最大含量、最低量は成人の1日栄養所要量の1/3とされている。また、特定保健用食品については、ヒト試験(長期、短期も含めて)で、効能効果を判定することが義務付けられている。

 ところで、食品や食品成分について医薬品と同じ発想で導入されたヒト試験を必須とすることが絶対必要であろうか?ここでは、このような食と食品成分を巡るヒト試験についてもう一度考え直してみたい。

 ヒトの健康には、そのヒトが持つ遺伝的な背景、環境、食生活、生活習慣、運動、休養など多数の要因が関係していることはいうまでもない。このように多数の要因をもつヒトについて「食」とか「食品」或いは「食品成分」の健康への効果を有意差が出るように投与して判定するのは、極めて難しいことである。元々不均一なヒトの集団を対象とし、しかも疾病をもっていない人々について、僅かな効果を探ること事態が困難なことといえよう。医療の対象となるような例えば糖尿病や高血圧といった症状を呈している患者さんについては、その症状を緩和するような急速に効果を示す医薬品の開発は必要であるし、容易でもあろうし、しかも効果が速やかであることが必要である。感染症を例にとれば、早く症状が緩和し、発熱なども平熱に速やかになることも重要なことである。従って早く効果が現れることが期待されるし、その必要性が高いことも容易に理解される。

 しかし、食品をそのような効果を示すものとして考えるとまず無理であるといえよう。というのは、和漢薬の場合も効果は穏やかで、緩やかな方が望ましいといえる。まして、食品の場合はその食品なり、その中に含まれるある成分(混合物も含めて)をかなり長期間摂取することで、効果が現れる方が自然であり、望ましいことといえる。あるリスクを持っている人々がそのようなりスクが表面化するのを遅らせる目的で特定の食品なり、食品成分を摂取することで、疾病に罹るのを遅くできれば食品による効果はあると理解されよう。そうした効果を判定する方法としては(1)医薬品と同じ手法で、ヒト試験で判断する(2)動物試験の結果からその結果を外挿して判断する(3)細胞レベルの試験なども併用する(4)コンピューターシミュレーションのよる、などの方法が考えられる。(1)以外の方法の際には、動物試験、細胞レベルの試験にしても判定するバイオマーカーの選択が極めて重要になる。即ち、ヒト試験の結果と高い相関性を持つバイオマーカーの選択、適した疾患モデル動物の選択が欠かせないことになる。つまり、ヒト試験においてもバイオマーカーの選択が重要なことはいうまでもないが、動物試験ではヒト試験と相関性の高いバイオマーカーの選択と開発が急務といえよう。

 最近はヒトの疾病についてもバイオマーカーの開発が急速で、新しい多数のマーカーが医療の現場で使われている。ヒトの場合は試料が血液や尿に限られるという制限があるが、その血液と尿についても「抗酸化剤」、「抗酸化酵素」、生体の酸化状態の測定、糖尿病や動脈硬化などの疾患のマーカーは新規のマーカーが使われるようになった。こうした医療の現場での進歩が、食品や食品成分の効能効果を判定する場合に有効であることはいうまでもない。

 特にこれからの「免疫機能に関連する食品素材」については、多様な目的の食品素材が登場すると予測されるので、新しいバイオマーカーの開発とその適切な応用が望まれるところである。

 食品と食品成分についての効能効果の判定に用いられるバイオマーカーについては学会の合意の上で利用するような方向が望ましく、この会のような「健康指標プロジェクト」の重要性は益々増すものと考えられる。

 

 
 

 

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