平成15年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
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第41回例会
(6月21日(土) 14:00〜17:00、京大会館102号室) |
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脊椎動物の体造り
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相沢 慎一 (理研神戸 発生・再生科学総合研究センター) |
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魚類から哺乳類まで脊椎動物成体の形は様々だが、同時に、初期胚の形もさまざまである。卵黄のため込み方によって初期胚は変形したが、それだけでなく爬虫類での羊膜の発明、哺乳動物での子宮への着床のための胚体外組織の発明など、脊椎動物進化の根本的命題も胚発生初期の過程を変えることによって達成された。しかし、咽頭胚期では脊椎動物の形態は相互に極めてよく似ており、発生学の父と言われるベアーはこの時期を、脊椎動物が脊椎動物であるためにその形を変えることが出来なかった時期、脊椎動物の発生におけるボトルネックと考えた。 生き物の体造りに分節的形成様式をみてとることはゲーテ以来の形態学の基本モチーフである。頭蓋骨を背骨の変形したものと捉えたゲーテは、脊椎動物の体に単一のメタメリズムを観た。咽頭胚はその体幹部にゲーテのみた体節に既定された分節性をもつ。しかし体節は耳胞より前には存在せず、この領域の神経管には発生過程でロンボメアーと呼ばれる自立的なくびれが顕れる。またこの領域には、哺乳動物胚でも、かってその先祖が海にいたことを物語るように鰓弓(咽頭弓)構造が繰り返し顕れ、2つのロンボメアーが1つの咽頭弓と対をなすという分節性がある。陸上に進出し鰓を必要としなくなった動物では咽頭弓は、様々な頭部構造の形成に転用された。さて脊椎動物の体はさらに前に、分節的形成様式を看て取ることのできない中脳・前脳を含む吻側頭部領域をもつ。ゲーテと異なり近代の形態学は体がこのような3つの部分から成り立つことを脊椎動物の共通派生形質と考える。 天才 Haeckel のお膝元で、”発生研究は進化研究の下僕ではない”とルーが反旗を翻し始まった実験発生学は、オーガナイザーなどSpemannを頂点として20世紀前半多くの成果を生み出したが、 物の同定で行き詰まり、20世紀後半の分子発生学まで停滞した。そして遺伝子の時代に今あって最もゲーテ的形態学の思考を体現するのが Hox code concept であるー無脊椎動物では6〜8の遺伝子よりなる1クラスターとしてあった Hox 群遺伝子は、脊椎動物で4クラスター(マウスでは計38)の遺伝子となり、前後軸に沿ってこれらの遺伝子が入れ子式に発現し、その発現の組み合わせよってその領域の前後軸での位置価が与えられるー。しかし、Hox 群遺伝子はロンボメアー3番、第2咽頭弓(舌骨弓)より後ろでのみ発現し、これより前の領域での位置価はどの様な分子基盤によって与えられているのであろうか。分子発生学はまた実験発生学がついぞ明らかにすることの出来なかった、オーガナイザー因子等物の実体も明らかにしつつある。 脳は脊椎動物に最も特徴的な構造物で、脊椎動物の姉妹動物といわれる頭索動物(ナメクジウオ)や尾索動物(ホヤ)の中枢神経系も脊椎動物同様神経管として出来るが、脊椎動物の脳に相当する構造はない。ヘッドオガナイザーにより誘導された吻側神経板(原脳)は、中脳と前脳に分かれ、ついで前脳は間脳と第2次前脳に、さらに第2次前脳の翼板が膨らんで終脳が出来るというのが脳形成の一般的理解で、後脳、髄脳を含めた脳の各領域はすべての脊椎動物に共通に存在する。しかし吻側神経板が本当はどのようなプランで領域化しているのか、そこに分節的な区分け、ニューロメアー構造は存在するのかは依然として不明である。そもそも脳の先端がどこであるかも明らかではない。魚の終脳は嗅覚の情報処理に関わる古皮質で、両棲類でその背側に原皮質、腹側に基底核が生まれた。新皮質は爬虫類の一部で古皮質と原皮質の間に生まれ、哺乳動物で劇的に発達6層構造をとるに至った。この様な終脳の形成は進化的にどの様に獲得されたプランによって可能となったのか。 私達は、前後軸の形成と頭部誘導から、前脳・中脳の領域化、各皮質領域形成と層構造形成までの分野を研究対象としているが、脊椎動物の頭部形成の包括的理解に貢献することによって、ひいては脊椎動物のボディプランとその起源について扉を開くことを願っている。
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