平成15年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
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第41回例会
(6月21日(土) 14:00〜17:00、京大会館102号室) |
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胚性幹細胞(ES細胞)を巡る研究と再生医療
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中辻 憲夫 (京都大学再生医科学研究所) |
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ヒトES細胞株の樹立と使用に関する政府指針が施行されて、厳格な条件下での研究が開始しつつある。京都大学再生医科学研究所では、現在樹立計画を進めている。順調にヒトES細胞株が樹立でき特性解析の結果が満足できるものであれば、出来るだけ早期に、指針で義務づけられた使用研究機関への細胞分配を実現したいと考えている。国内で樹立され品質が確認されたヒトES細胞の供給体制を確立することが、我が国における再生医学研究を発展させるうえで極めて重要である。 ES細胞の医療応用においてもっとも大きな問題と考えられるのが拒絶反応である。通常のES細胞から作られる機能細胞の移植は患者にとっては同種異系統間のアロ移植になる。臓器移植においてはドナーとのMHC型ができるだけ類似した患者を選択し、また免疫抑制剤との併用により拒絶反応を最小限にとどめる努力が行われている。同様の方法をES細胞による移植治療で行おうとすると、MHCのタイプを網羅した多数のES細胞株の樹立のために莫大な数のヒト胚が必要となり、倫理的にもまた実際の作業面でも実現は不可能といえる。完全に免疫拒絶を防ぐために有効と考えられているのが患者の体細胞を用いてクローン胚を作成しそこからES細胞株を樹立する方法である。この方法を用いれば患者と同一の核ゲノムを持ったES細胞株を作ることができ、移植を行う上では理想的な細胞といえるだろう。しかしクローン胚の作成にはヒト卵子が必要であるが、どのように提供を受けるかという倫理上の問題が生じる。またクローン胚の作成そのものはクローン人間を作ることとは異なるが、クローン人間の作出にもつながるのではと言う懸念から多くの国で当面禁止されている。 ところで、クローン胚作成では未受精卵に導入された体細胞核の「初期化」と呼ばれる現象が起きるが、我々の研究室では卵子の持つこのような活性に類似した活性をES細胞が持つことを見いだした。つまり体細胞とES細胞を融合することで、体細胞をES細胞のような多能性幹細胞に変換できた。この細胞融合系は、実験に使用できる数が限られる卵子を使う場合に比べて、再プログラム化因子の同定と機構解明に役立つと考えられる。一方、ES細胞はあらかじめ遺伝子改変を行うことができるので、MHC遺伝子など免疫拒絶に関与する因子をあらかじめ破壊したES細胞で患者の体細胞を変換すれば、染色体数が倍の4倍体細胞であることが障害とならない限りは、卵子を使うことなく拒絶反応を回避できる患者適合型多能性幹細胞を作成する方法を開発できるかもしれない。
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