2003.4.1
 

 平成15年健康指標プロジェクト講演会要旨

第39回(4月19日(土) 13:00〜17:00、芝蘭会館研修室1)
E-Cellプロジェクトの挑戦:
細胞シミュレーションによる病態解析の試み

内藤 泰宏
(慶應義塾大学先端生命科学研究所,環境情報学部)
 


 生物を構成する要素は多様かつ多量であり,従来の要素還元主義的な方法論,仮説検証型のアプローチのみで生命現象を理解し尽くせるかどうかは明らかではない.これを受けて,1990年代初頭よりゲノム科学をはじめとする網羅的測定による新分野が勃興した.現在では毎週のように新たな生物種のゲノムが決定され,日々,データが蓄積されている.この莫大なデータを解析し,有益な知識を抽出するために重要性を増しているのがバイオインフォマティクスそしてシステム生物学である.

 システム生物学は,バイオインフォマティクスが生命科学の一分野として認知 されつつあるこの一,二年の間に,あらたに注目を集めつつある新領域であり,細胞シミュレーションはその基盤技術のひとつとなる.生物のデザインを俯瞰的に理解しようとするシステム生物学は,実験生物学とバイオインフォマティクスから得られた知識を統合し,生物を総体として理解するための方法論をめざしている.そこで,生物(の一部分)を記述したモデルを「動かす」ための手段として,細胞シミュレーションが重要となる.

 私たちは,細胞シミュレーションのためのソフトウェア環境E-CELLの開発に取 り組んでいる.細胞シミュレーションには,生物(細胞)の構造の複雑さに起因する特殊な要求,困難があり,E-CELLはそれらに応えるためのモデリングのフレームワーク,数値計算のアルゴリズムを実装している.また,E-CELLプロジェクトではソフトウェア開発と平行して様々な細胞モデリング研究を展開している.今回は,病態解析とオーダーメイド医療をめざす糖尿病モデルと,精密な細胞モデルをめざして構築を進めている心筋細胞モデルを紹介する.糖尿病モデルは,膵,肝,筋などを含む多細胞,多臓器のモデルであり,臨床データを再現することによるオーダーメイド・モデルの構築をめざしている.心筋細胞モデルは,電気生理学の詳細なデータに基づく京都モデル(京大・野間ら[本会演者])を核としており,現存の細胞モデルの中では最も精密なもののひとつである.両モデルによるin silico実験の結果も紹介し,細胞シミュレ ーションの可能性について論じたい.

 

 
 

 

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