2003.4.1
 

 平成15年健康指標プロジェクト講演会要旨

第39回(4月19日(土) 13:00〜17:00、芝蘭会館研修室1)
生体機能のシミュレータ開発は何処まで可能か?
心筋細胞機能のシミュレーション

野間 昭典
(京都大学大学院、細胞機能制御学(生理学)講座)
 


 
 ポストゲノムプロジェクトとして、分子レベルでの研究成果を統合することが求められている。そこで、如何に分子機能を細胞や生体の機能に統合することができるか、これが今問われている最も重要な問題である。コンピュータ技術が発達した現在では、これまでのように総説的に機能を解説するのでなく、情報科学の技術を駆使して、定量的に生体機能を分子機能に基づいてコンピュータ上に再現することを提案している。コンピュータ上に再現された生体機能は、数学式で記載されるものであり、ユーザーのいろいろな要求に応じて、機能メカニズムの解説、あるいはいろいろな刺激に対する生体反応を、再現できるであろう。これは近い将来、生体の薬物応答や、病態のメカニズム、更には、患者の治療指針さえもシミュレータ上で試すことを可能にするに違いない。

 生理学領域でのシミュレータの原型は、例えば、1952年に発表されたホジキン・カッツの神経活動電位モデルにある。これは、Naチャネル(当時はチャネルの概念は確立してなかった)とKチャネルの機能を数学式に表し、細胞膜を電気的等価回路に表し、これらを統合して、見事に神経線維の電気的活動をコンピュータ上に再現した。これによって、彼らはノーベル賞を受賞している。

 心筋細胞機能のシミュレーションは1960年代から、電気的活動の再構成から始められた。現在では、10種類以上のイオンチャネルの機能について、詳細な研究報告があり、それらを総合して、心電図の基礎である細胞の電気的な活動が再構成されている。しかし、このレベルではいろいろな病態に広く応用ができるシミュレータとは言えなかった。我々は、電気的な活動によって制御される心筋細胞の収縮(膜興奮と収縮の連関)、更には、細胞活動を支えるエネルギー代謝などをモデルに含めることによって、より生命活動を反映する包括心筋細胞モデルを構築することを目指して いる。

 この講演では、このようないわばバイオシミュレータが何処まで可能か、その将来像について考察してみたい。  

 

 
 

 

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