2003.1.8
 

 平成15年健康指標プロジェクト講演会要旨

第37回(1月18日(土) 14:00〜17:00、京大会館)
分子発生学的機構から見た進化的新形態の起源:顎と甲羅

倉谷 滋
(理研神戸 発生・再生科学総合研究センター)
 


 進化的に新しいパターンはいったいどのように成立するのだろうか。真の意味で「新しい」形態というものを定義するのは簡単ではない。例えば、コウモリの翼は確かに新しく哺乳類に成立した形態であるかもしれないが、それを解剖学的に精査することによって明らかとなるように、この構造は我々の腕と同じ形態要素によってできた、相同な形質であり、いかなる新しいパターンもそこには生じていない。つまり、祖先の発生拘束から逃れることは簡単にはできず、基本的プランを保持したまま比率を変えることによって「適応」したのがコウモリの翼である。真に新しいパターンというものはしたがって、祖先的段階の発生拘束から脱却することによってしか得ることはできず、その結果としてしばしば形態的相同性は失われることになる。このようにしてみたとき、脊椎動物の顎は確かに進化的新規形態であるらしい。つまり、発生パターンとして見たとき、無顎類ヤツメウナギの口器は顎口類の顎とは別の要素からできあがるのである。しかしながら、このようなヤツメウナギの口器であっても、それを形態的にパターンとするための分子機構は、顎口類の顎のために用いられるものと「相同な」遺伝子によって構成されている。つまりこの進化現象においては、「相同な遺伝子が相同ではない構造に使い回されている」という状況があるらしい。このような進化プロセスを可能にした機構について、ヘッケルのヘテロトピー概念を用い考察する。

 

 
 

 

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