平成13年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
|
第26回(11月17日(土) 14:00〜17:00、芝蘭会館)
|
|
遺伝子組換え作物はなぜ必要か
|
|
佐 野 浩 (奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター) |
|
環境悪化、および食糧不足の主原因は爆発的に増加する世界人口である。二十一世紀の人間生活を持続可能にするためには、人口増の抑制が最も効果的な対策であるが、それは今のところ不可能とされる。次善の策は徹底的な省エネルギーとライフスタイルの変更であるが、世界の現状を考えるとこれも困難である。緊急対策として最低限、食糧の確保とこれ以上の環境悪化の防止を計らねばならない。それにも多くの困難が伴うが、人間の英知と、これまでに開発された科学技術を駆使すれば実現は不可能ではない。とくに、植物の分子育種には大きな期待が寄せられている。 分子育種とは従来の交配育種では得られなかった形質を人工的に植物に付与する、と定義される。その方法には二とおりある。第一は異種間の細胞融合。第二に異種の遺伝子導入。現在では第二の遺伝子導入による組換え植物の作成が主流を占め、全世界で1000件以上の新規形質を導入した組換え植物がすでに野外圃場で栽培されている。その種類はおよそ40、ジャガイモ、ナタネ、タバコ、トウモロコシ、トマトなどが多い。形質は除草剤耐性、耐病性、耐害虫性、完熟防止や食味の向上などある。ホスト植物としては商業性の高いものが、また、形質としては単一遺伝子で付与できるものが選ばれている。食糧問題や環境悪化を考える場合、分子育種には異なったアプローチが求められる。荒廃した農地や極限条件下でも栽培できることが第一の条件である。酸性土壌、塩の析出した土壌、乾燥地、湿地、高地、寒冷地など、これまで農地に適さなかった土地でも育つ植物が求められるが、実用化された例はない。 遺伝子組換え植物の実用化にあたって、その環境および健康に及ぼす影響は十分、配慮されなければならない。組換え植物のリスクとして次の二点が挙げられる:生態系に与える影響;食品としての安全性。前者では組換え植物の雑草化と導入遺伝子の水平移動(他の植物への伝播)に注意する必要がある。後者では有害物質の生産が危惧されている。現在、組換え食品の危険性が論議されているが、その基になる具体的なデータは乏しい。可能性ばかりが一人歩きすることは避け、十分な実験結果に基づいた討論が望まれる。
|
|
■ 平成13年健康指標プロジェクト講演会開催計画に戻る ■
|