2001.7.10
 

 平成13年健康指標プロジェクト講演会要旨

第24回(9月22日(土) 14:00〜17:00、京大会館 102号室)
小胞体品質管理からみた神経変性と細胞死

遠山 正彌
(大阪大学院医学系研究科
ポストゲノム疾患解析学講座プロセッシング機能形態分野)
 

     

 小胞体には小胞体内に折りたたみ不良蛋白の蓄積を防ぐ小胞体ストレスセンサー (IRE1, ATF6, PERK)が存在する。IRE1は小胞体内の不良蛋白を感知すると自己リン酸化し活性型となる。ATF6は小胞体では90kdaの膜貫通蛋白であるが折りたたみ不良蛋白を感知すると50kda分子が切り離され核内に移行する。自己リン酸化したITE1と50kdaATF6は分子シャペロンGRP78の発現増強をもたらす。発現増強したGRP78は小胞体内で折りたたみ不良蛋白を正常な蛋白に変換させ、小胞体内に折りたたみ不良蛋白が蓄積するのを防ぐ。一方PERKは小胞体内での折りたたみ不良蛋白の存在を感知すると自己リン酸化し、翻訳を停止させることにより折りたたみ不良蛋白が小胞体内に蓄積するのを防ぐ。

 アルツハイマー病はプレセニリン1(PS1)、2(PS2)やAPP遺伝子に変異が存在する家族性アルツハイマー病(5%)と原因が不明の孤発性アルツハイマー病に分けられる。いずれにおいても、痴呆の要である神経細胞死の機序は不明であった。我々は家族性アルツハイマー病においてはPS1変異体が小胞体ストレス負荷時に上記のストレスセンサーの機能障害を引き起こし神経細胞死に至る事を明らかとした。また孤発性アルツハイマー病においては小胞体ストレスにより産生されるエクソン5を欠損したPS2スプライシングバリアント(PS2V)が全例において発現し、小胞体ストレス負荷時にストレスセンサーIRE1の自己リン酸化を抑制、その結果神経細胞死を引き起こすことを証明した。即ち、アルツハイマー病における神経細胞死は小胞体の機能異常を起源とする神経細胞死である。さらに我々はPS2Vの発現機序の解明とその制御にも成功しており、孤発性アルツハイマー病の根本的治療薬への開発に道を開いた。またPS1およびPS2VはともにAβ蛋白の分泌上昇と孤発性アルツハイマー病患者脳脊髄液中でのPS2Vの上昇を認めており、この成果を基に孤発性アルツハイマー病の早期診断薬の開発を勧めている。

 脳虚血時には神経細胞は容易に死に至るがアストロサイトは虚血耐性を示す。この事実は虚血時にアストロサイトが虚血負荷時を生き残りうる蛋白を合成している可能性を示す。小川らは虚血負荷時に特異的にアストロサイトに発現するシャペロンORP150の単離に成功した。ORP150は小胞体に発現し、小胞体からゴルジ装置への蛋白輸送を担うシャペロンである。このORP150がないとアストロサイトは虚血負荷時に容易に死に至る。また神経細胞にORP150を強制発現させると神経細胞は虚血負荷時でも生き残ることができる。すなわちORP150は虚血時に小胞体の機能を守ることにより細胞を細胞死から救済している。

 以上の事実は小胞体の機能維持が細胞の生死の鍵となり、小胞体の機能異常を起源とする神経細胞死が、少なくとも神経系では重要な比率を占めていることを示す。

 

 
 

 

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