2001.8.13
 

 平成13年健康指標プロジェクト講演会要旨

第24回(9月22日(土) 14:00〜17:00、京大会館 102号室)
分子シャペロンによる蛋白質の品質管理と病態

永田 和宏
(京都大学再生医科学研究所)
 

     

 最近、細胞内で合成される全蛋白質の30%が、最終的な正しい構造に到達することなく分解されてしまうという報告が出て、我々を驚かせた。さらに50%が分解されるという報告まであらわれ、これらはいずれも蛋白質の正しい構造形成が、きわめて複雑な過程を経てなされるものであることを示すとともに、細胞内で蛋白質の構造をチェックする、厳密な品質管理の機構が用意されていることを示唆している。

 小胞体は、分泌タンパク質および膜タンパク質の正しい構造形成に中心的な役割を果たすオルガネラである。翻訳と共役しながら小胞体に輸送されてきたポリペプチドは、フォールディング、ジスルフィド結合、糖鎖の付加およびトリミングをはじめとする種々の修飾を受け、正しくフォールディングしたタンパク質だけが小胞体からゴルジへと輸送される。この過程を productive folding と呼ぶ。一方、このような productive folding が破綻するような条件下では、分子構造に異常をきたしたタンパク質は、小胞体の中できわめて厳密な品質管理 (Quality control) を受けることが最近の研究から明らかになってきた。

 小胞体における品質管理には、3つの戦略が用意されている。糖鎖付加が阻害されたり、変異タンパク質が発現したりして、misfold タンパク質を生じるような条件下(小胞体ストレス)では、1)UPR (unfolded protein response) pathway が活性化されて、分子シャペロンが誘導され、小胞体フォールディング容量の増加と misfold タンパク質の再生がはかられる。同時に、2)翻訳開始因子 (eIF2a) のリン酸化を介して、大部分のタンパク質の翻訳を一時的に抑制することによってフォールディングの負荷を軽減する機構も備わっている。それでも異常タンパク質の蓄積に対処できない場合は、3)それらをいったんサイトゾルまで逆輸送してユビキチン・プロテアソーム系で分解する、いわゆる小胞体関連分解 (ERAD) の系が働くことになる。

 本講演では、このうち基質特異的シャペロンとしてプロコラーゲンの productive folding に必須の役割を果たしている Hsp47 と、糖蛋白質の ERAD に関与する小胞体新規蛋白質 EDEM の品質管理機構における役割について話し、併せて種々の病態におけるそれらの役割について考察する。

 

 
 

 

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