2001.5.24
 

 平成13年健康指標プロジェクト講演会要旨

第23回 (6月16日、14:00〜17:00、芝蘭会館 研修室2)
ES細胞の生物学と医学

仲野 徹
(大阪大学微生物病研究所 遺伝子動態研究部門)
 

     

  マウス胚性幹細胞(ES細胞)はマウスの初期胚から樹立された未分化な細胞で、正常な初期発生に組み込ませると、生殖細胞を含むすべての細胞に分化する。また、マウスES細胞は試験管内においてもいくつかの細胞系列への分化が可能である。in vivoに比較するとin vitroにおける分化能はかなり制限されるが、血液細胞、血管内皮細胞、心筋細胞、神経細胞、インスリン分泌細胞などに分化誘導することが可能であるとされている。

 マウスES細胞の未分化性は、LIF(leukemia inhibitory factor)から、その受容体であるgp130を介し、転写因子であるSTAT3によって維持されている。したがって、LIFの除去が分化誘導の第一段階として必須である。分化誘導には主として、胚様細胞塊(Embryoid body)を形成する方法とストロマ細胞と共生培養する方法が用いられる。それぞれに長所・短所があり、目的に応じて使い分けられている状況にある。我々は、マクロファージコロニー刺激因子を欠損するストロマ細胞OP9を用いて共生培養することにより、マウスES細胞から血液細胞を分化誘導する方法を確立した。この方法は、造血システムの発生過程をin vivoと同じtime courseをもって再現することができ、造血システムの発生・分化を解析するのに非常に優れたモデルである。しかし、マウスES細胞からの試験管内分化誘導では、造血発生の初期に出現する胚型の赤血球や造血前駆細胞は分化誘導可能であるが、発生の中期に出現する造血幹細胞を誘導することは、現時点において不可能である。このような発生過程の比較的遅い段階に出現する細胞への分化誘導の困難性は、ES細胞からの分化誘導における一般的な限界なのかもしれない。一方、マウスES細胞は遺伝子改変が非常に容易なので、種々の方法を用いて、造血幹細胞に近似した細胞を分化誘導できるのではないかという仮説の下、研究を行なっており、その内容を紹介したい。

 ヒトES細胞が樹立され、再生医学における最も有用な資源になりうるのではないかと期待されている。膨大な数の総説や報道がなされているが、原著論文は未だに数編しかなく、十分な情報があるとは言いがたい。マウスES細胞からの分化誘導研究の経験から、ヒトES細胞から何ができそうなのか、また、どのような困難が待ち受けていそうなのかについて論じたい。

 

 
 

 

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