2001.5.10
 

 平成13年健康指標プロジェクト講演会要旨

第22回 (5月19日、14:00〜17:00、京大会館102)
ヒト骨形成促進のメカニズム

穂積 信道
(東京理科大学 生命科学研究所)
 

     

 骨量の減少が特定の疾患によらず病的に亢進した状態が原発性骨粗鬆症である。我が国における骨粗鬆症の患者は1100万人に達するものと予想されている。また "寝たきり老人" の原因となる疾患の中でも、骨粗鬆症は脳血管障害についで第二位にある。このように骨粗鬆症の克服は高齢化社会へ向かう我が国にとって重要な課題である。

 骨は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を営むことによりリモデリングをくり返しているダイナミックな系である。これまで骨粗鬆症に対しては骨吸収の抑制を標的にした治療研究が主であった。一時的に骨形成が上昇し、骨吸収も増加する高代謝型骨粗鬆症においても最終的には骨形成が減少する。従って骨粗鬆症治療の新しい治療戦略の開発には骨形成促進の研究が強く望まれる。

 我々は形態形成分子であるNotch の骨形成における機能に着目した。マウス骨芽細胞株、MC3T3-E1はin vitro 条件下で骨芽細胞に分化する。この細胞では分化初期段階から Notch 遺伝子の発現が観察される。活性型Notch 遺伝子 (Notch-IC)を持つアデノウイルスベクターをこの細胞に感染させたところ、長期培養実験系で石灰化の促進が認められた。さらにリガンドであるDelta-like-1を発現する細胞とコントロールMC3T3-E1細胞を共存培養したところ、同じように石灰化の促進が誘導された。間葉系細胞であるC3H10T1/2培養系にBMP-2 を加えると脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞に分化する。しかしBMP-2添加とNotch-IC導入を組み合わせた場合、C3H10T1/2細胞の殆どは骨芽細胞に分化した。ヒト骨髄から作製された間葉系幹細胞は条件により脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞に分化する。この細胞にNotch-IC を導入したところ骨芽細胞分化が誘導された。またヒト骨髄から作製したPrimaryストローマ細胞へのNotch-ICの導入においても同じような現象が確認された。このようにNotch シグナル伝達の経路を操作することによりヒトストローマ細胞に骨形成を誘導できる可能性が示された。

 さらに我々はヒト骨リモデリングを再現できるin vivo モデルを開発した。NOD-SCID マウスの皮下に移植されたヒト海綿骨では、ヒト由来の造血系の再構築、血管新生、骨リモデリングが維持される。特に骨リモデリングはドナー由来の性格が保たれる。この実験系をさらに発展させ、遺伝子治療のモデル実験を行った。Primary ヒト骨髄ストローマ細胞にレトロウイルスベクターを用いてヒトIL-6 遺伝子を導入し、予めNOD-SCID マウスの皮下に移植しておいたヒト骨内にこれらのストローマ細胞を移植した。マウス血清中には高いIL-6 の発現が確認され、またヒト骨髄内では局所的なIL-6の高 発現によるヒト破骨細胞の分化亢進が観察された。この実験系を用いればヒト骨形成促進の前臨床モデル実験が可能になるであろう。  

 

 
 

 

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