平成13年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
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第21回 (4月21日、14:00〜17:00、京大会館102)
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先天性基本免疫システム(リンパ球以前の免疫システム)による
抗がん免疫の誘導機構 |
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瀬谷 司 (大阪府立成人病センター研究所 第6部長) |
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感染症を併発したがん患者でがんの退縮がみられること、結核患者にがんが少ない ことなどが巷間で報告されてきた。また、アガリクス、マイタケ、サルノコシカケなどの茸類、BCG, 丸山ワクチン、ピシバニール、細菌の DNA non-methylated CpG リピートなどの微生物成分ががんに有効との資料も提出されてきた。これらは既存の「リンパ球の免疫系」の理解の範囲では説明がつかず、非科学的という誹りを受けがちであった。 これらの有効成分はヒトに無くて異物または感染成分に存在する糖、脂質および蛋白質複合体とみなされる。最近、これらの微生物成分を特異的に認識するレセプターがレパートリーとしてヒト抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞)に備わっており、成分特異的な抗原提示細胞の活性化を誘導することがあきらかになった。このレセプター群はToll-like receptors (TLR) と呼ばれる。Toll receptor は驚くべきことにハエやセンチュウにも存在し、生体防御を司る。ハエのToll signaling は抗菌ペプチドを産生せしめるのに対し,ヒトのToll signaling はリンパ球活性化因子(cytokines, co-stimulators etc.)を発現せしめる。Genome project は Toll を含む微生物レセプターが確たる存在で進化的に過去から受け継がれてきたことを雄弁に実証しつつある。これは近々軟骨魚類以上に始めて現れる獲得免疫とは比較にならないほど根源的である。事実、地球上の120万種の動物種のうち 110 万種近くはリンパ球を持たず,従ってこの生体防御系で守られる。少なくとも、リンパ球を持たない生物がそのために高頻度で感染やがんに晒されることはない。この多細胞生物に普遍的な生体防御系を innate immunity (基本免疫)と呼ぶ。 以上から、高等動物は進化的に基本免疫と連動するようなもう1つの免疫系(獲得 免疫)を発達させたこと、これまでの免疫研究とは終末細胞(リンパ球)の活性化のみを研究対象としてきたことを推定させる。 本講演ではヒトに備わる基本免疫系を概観し、この「リンパ球以前」の免疫系を活 性化する分子が抗がん作用を発揮することを例証する。これまで作用機構が不明であ った微生物成分の抗がん機構も分子レベルで明らかにしうる。がんは抗原性があって も基本免疫を標的とする微生物成分を持たないために宿主免疫を十分に活性化しない。微生物成分の有効性の判定には gene chip を用い、菌体成分が如何なる遺伝情報を制御して抗がん活性という細胞応答を誘起するか、免疫療法の予後を規定する因子は何かなどの最新情報にも言及する。
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