1999.10.29
 

 平成11年健康指標プロジェクト講演会要旨

第8回 (11月20日、14時〜17時、京大会館211)
古典的放射線生物学における回復現象の分子生物学的解析
--2種類のゲノムDNA2重鎖切断修復機構の役割--
内海博司
(京大原子炉研究所)
田野かおり(京大原子炉研究所)、高田穣(京大医・遺伝医学)、
武田俊一(京大医・遺伝医学)、M. M. Elkind (コロラド州立大学)
 

 

  放射線生物学では、放射線傷害が軽減される細胞現象を回復(recovery)と呼び、分子レベルで起きている修復(repair)と区別しながら、実体も修復機構もブラックボックスにして、X線などの電離放射線ばかりでなく種々の坑癌剤に対しても、亜致死障害(SLD: sublethal damage)の回復、潜在性致死障害(PLD: potentially lethal damage)の回復という現象面からの多くの研究がなされてきた。細胞の生死と関係している現象であることから、DNA2重鎖切断(DSB: double strand break)と関係していると考えられてはいたが、これらの現象を観察する線量範囲では、DSBを直接測定できる鋭敏な技術も確立されておらず、適切なDSB修復欠損した培養高等動物細胞もなく、DSBとの関連は不明のまま今日に至っていた。

 我々は、これらの現象を、武田グループがニワトリ細胞株(DT40)を用いてDSB修復系の遺伝子をノックアウトした細胞系{相同DNA組み換え(HR: homologous recombination)欠損細胞(Rad54-/-)、非相同組換末端結合(NHEJ: nonhomologous end-joining) 修復欠損細胞(Ku70-/-)、Ku70とRad54の両方が欠損した細胞(Rad54-/-/Ku70-/-)}を利用して、これらの問題に挑戦した。

 我々の結果は、SLD回復とは放射線照射により誘導されたDNAの DSBが、NHEJ 系でなく、HR系で修復された結果、細胞レベルの生死に反映した現象であることを明らかにした。放射線による生存率曲線がなぜ直線になったり、肩のある曲線になるかの理由についても考察する。また、PLD回復とは何か、線エネルギー付与(LET: linear energy transfer)と生物効果比(RBE: relative biological effectiveness)との関係などについて検討する。

 

 
 

 


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