平成11年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
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第8回 (11月20日、14時〜17時、京大会館211)
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相同組換えの分子生物学
--遺伝学的手法を用いた2種類の ゲノムDNA2重鎖切断修復機構の役割の解析-- |
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武田 俊一
(京大 医・遺伝医学) |
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高田穣、園田英一郎(京大放射線遺伝学)、内海博司(京大原子炉研究所)
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我々は、高頻度に標的組み換えを起こすので容易に遺伝子ノックアウトが行えるニワトリ細胞株(DT40)から系統的にDNA修復機構の変異クローンを作成している。電離放射線照射によって誘導されたゲノムDNA2重鎖切断は1コでも修復されずに残ると致死的であると考えられている。2重鎖切断は、相同DNA組み換えとend-joiningの2種類の独立した経路によって修復される。これらの修復経路は酵母からヒトまでよく保存されている。相同DNA組み換えとend-joiningの経路の動物細胞における役割を解明する目的で、我々は、相同DNA組み換え欠損細胞(DRad54) 、end-joining欠損細胞(DKu70)、Ku70とRad54の両方が欠損した細胞(DRad54/DKu70)を作成し、同調培養して各細胞周期ごとの電離放射線感受性を解析した(Ref.1)。その結果、DRad54 細胞は、放射線感受性がS期の後期に高まりS期前期の放射線感受性と同じレベルになった。酵母の2重鎖切断修復では相同DNA組み換えが相同染色体間もしくは姉妹染色分体間で起こることが知られている。我々の知見は、動物細胞ではRad54が関わる 組み換え修復が染色分体に誘導された2重鎖切断を姉妹染色分体間の相同組み換えによって修復することを示唆している。Ku70欠損細胞の放射線感受性は、G1期に非常に高かった。この知見は、DNA複製前に誘導された2重鎖切断の修復は、end-joining によって行われ、相同染色体間の相同組み換えによる修復はほとんど関与していないことを示している。DRad54/DKu702重欠損細胞は、どちらのタイプの1重欠損細胞よりも、はるかに高い放射線感受性を示した。この知見は、両方の修復経路が2重鎖切 断修復についてかなり相補的であることを示している。 我々は、相同DNA組み換えに関与する様々な遺伝子の変異株を解析することにより、相同DNA組み換えが体細胞の増殖中に必須の働きをすることを見い出した(Ref.2,3)。すなわち、相同DNA組み換え機構の変異細胞のほとんどは、増殖中に細胞死を起こす。細胞死を起こす細胞の比率は欠損させた遺伝子の種類によって異なり、Rad51やMre11の欠損では最終的に全細胞が細胞死を起こした。そして様々な変異株で細胞死の比率は染色体段裂のレベルに比例することを見い出した。この知見は、相同 DNA組み換え機構は、電離放射線によって誘導されたゲノム2重鎖切断の修復だけでなく、DNA複製中に発生するゲノム2重鎖切断の修復にも関与することを示す。さらに、我々は、姉妹染色分体交換が相同DNA組み換えによって起ることを解明した(Ref.4)。姉妹染色分体交換はヒト細胞が正常条件で増殖中に1回の分裂あたり数回/細胞、観察されるので、我々の姉妹染色分体交換に関する知見も相同DNA組み換えが体細胞分裂中にも活発に起っていることを示す。 論文リスト(Ref.)
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