平成11年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
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第5回 (6月26日、14時〜17時、京大会館212)
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がん免疫を調節する因子
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栗林景容
(三重大 医・生体防御) |
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メラノーマ(悪性黒色腫)の研究を契機として、他のヒト悪性腫瘍にも拒絶(排除)を引起こしうる拒絶抗原の存在が証明された。これを基盤に、がん免疫治療が開始されている。しかしがんに対する免疫反応は、がんが生体内にあって絶えず増殖を維持し担癌個体を消耗させるなど、一般的なタンパク質抗原に対する免疫反応とは些か異なった側面をもつ。がんの進行の結果、悪疫質となった消耗状態の患者に免疫療法が無効であろうことは想像に難くない。また、抗原(免疫原)性をもつがんが、どの様な機序で免疫系の監視網をかいくぐって成長を続けるのかについても充分に解明されてはいない。この問題については、がん細胞は“がん抗原の提示に必要な分子--主要組織適合抗原:MHC--を欠損している”、“免疫反応の誘導に必要な補助刺激分子--B7--が発現していない”、“がんでは免疫反応が抑制されやすい”等の機序が指摘されている。特にがん免疫応答を抑制する細胞の出現は、紫外線照射によりT細胞を介した免疫反応が抑制されることはよく知られた事実でもあり、オゾン層破壊による紫外線の増加に伴うヒト発がんとも関連することが予想され、がんに対する免疫反応を考えるとき重要と考えられる。 一方、がん免疫療法にはワクチンをはじめとする様々な方法が考えられる。メラノーマ治療には、腫瘍細胞を特異的に殺すTリンパ球(CTL)を患者から採取、in vitroで大量培養後患者に戻す“養子免疫”療法がよく用いられる。CTLの大量培養にはT細胞増殖因子であるインターロイキン2(IL−2)が必須である。しかし、IL−2を用いて培養するとCTLの生存・増殖はIL−2依存性となり、またCTLの生体内での組織移行性は非培養T細胞とは大きく変化し、その結果養子免疫療法の効果は著しく低下する。培養によるTリンパ球の変質を阻止できれば免疫療法の進展に大きく寄与できるものと考えられる。 本講演では、モデル系を用いた我々のデータを中心に、がん免疫の成立にin vivo, in vitroで影響する因子について概説したい。
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