平成11年健康指標プロジェクト講演会要旨

第4回 (5月22日、14時〜17時、京大会館102)
リウマチのモデルシステム
岩倉洋一郎
(東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター)
 
 

 近年の発生工学手法の進展は、哺乳動物遺伝子の機能を個体レベルで解析する道を開いた。この技術によって、特定の遺伝子を自由に改変することが可能になり、高等動物で初めて本格的な分子遺伝学的アプローチが可能になったといえる。この結果、これまで主として試験管内の情報から作り上げられていた生体分子の機能や役割、あるいはそれらの相互関係に関するイメージが、大きく変えられようとしている。いずれはすべての遺伝子について、個体レベルの検証に基づいた、機能的な位置づけが改めてなされるものと考えている。疾病と遺伝子との関係についても、これまで一部の遺伝病を除いては曖昧であったが、この手法によって特定の遺伝子と疾患との関係がはっきりとした形で捉えられるようになってきた。ことに、いわゆる生活習慣病や、自己免疫疾患などの多因子性疾患の発症機構の解明においては、この技術がきわめて強力な武器になることが期待されている。本研究会では代表的な自己免疫疾患である、関節リウマチを取り上げ、発生工学的アプローチの一例を紹介したい。

 HTLV-Iは成人T細胞白血病の原因ウイルスで、我が国で最初に発見されたことで有名であるが、我が国には100万人もの感染者がいることが知られている。我々は、このウイルス遺伝子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを作製し、このマウスが関節リウマチ様の慢性関節炎を発症することを初めて報告した(Iwakura et al., Science, 1991)。その後の疫学的調査から、実際このウイルスが関節リウマチに関与することが報告されている。発症には自己免疫が関与しており、関節滑膜で生産されるIL-1、およびIL-6も病態形成に重要な役割を果たしていることがわかった。驚いたことには、IL-1の拮抗阻害分子である、IL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1ra)をノックアウト(KO)したところ、このマウスも自己免疫性の慢性関節炎になることがわかった。従って、IL-1raは免疫系の重要な調節因子であることがわかる。ところでIL-1-KOマウスは、関節炎を発症しなくなるだけではなく、発熱や、副腎からのステロイドホルモンの分泌も強く押さえられていた。この結果は、IL-1が脳の中枢においても重要な働きをしていることを示している。このように、IL-1は免疫系と神経・内分泌系を結びつけるメディエーターとして機能していることがわかった。神経・免疫・内分泌系におけるサイトカインの役割について、議論したい。

 

 
 

 

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